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エッセイ集:コオロギの素揚げ

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掌編ホラ小説『小説大賞受賞作品にまつわる秘話』



 ドキドキしながら携帯電話をいじっていた指が、一瞬こわばった。中島みゆきの『麦の唄』のメロディーが鳴ったからである。
『薔薇乃かおりさん? おめでとうございます。文藝冬夏小説大賞はあなた、薔薇乃かおりさんに決定いたしました』
「ほんまですか!? ありがとうございます。ほんまにほんま、私ですか?」
 文藝冬夏社主催のオンライン長編小説(ジャンルは問わず)の募集に応募した『友情はLOVE?』が大賞を射止めたのである。
 1次審査を通った時には「やった!」と叫び、周囲の人に吹聴して回った。2次審査に通った時には、疑心暗鬼にとらわれた。まさかそこまでいくはずはない、と思っていたからである。そして最終審査が、今日行われると聞いていた。
 大賞は嬉しいが、複雑な気分はぬぐえない。実を言うと、完成させたのは私ではないからだ。
 投稿サイトにアップしていた掌編に加筆したのは、AIである。
 大学で人工知能を研究している知人が開発し、小説を書けるまでになっていたそれを、プロからどのような評価を受けるか、実験的に試したのが大賞となったのである。
 その小説は、満足できるものではなかった。最終的には、私自身が手を加えたはずだった。手を加えてすぐに送信したのだが、0.4秒の素早さで、AIが元に戻してしまったらしい。
 審査委員長である有名作家の書評は、こうである。
――例えば、《重いのほか思い》《出愛を合いす》といったような漢字の使い方が、意外性があって面白い。
――全体に、何を言おうとしているのかテーマがあいまいで、結末がぼやけていることも含めて、読者自身に考えさせようとしているところが斬新である。
 私自身がこっそりと手を加えた所はすべて、AIが元に戻していた。

 文藝冬夏小説大賞受賞を知った知人から電話があった。AIに書かせた小説が1次審査を通ったことは教えていたが、どこの主催かまでは教えていなかった。
『ごめん。応募したんが文藝冬夏やったとは、知らんかってん。そこの審査員らが、何百という応募作品を読んでる暇ない、そんな時間があったら自分の小説を書いてるほうがよっぽどよい、ゆうんでおんなじAIを貸してん、極秘で。あんたに貸したんとはホストが一緒やから、ネット上で最も読まれてる人気小説を分析してその傾向で小説を書くし、その基準で良しあしを判定するから……』

 私は、書店に並んでいる、活字となっている私の小説が、そこそこ売れているのを知った。
 メディアが「良い」と発信したものは、実のところ良くなくても、良いものとして大衆に受け入れられるのだということを、私は知ったのである。


                   2016年 3月25日