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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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風、彼方より舞い戻る 神末家綺談8

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「で、話って?」
「うん・・・その前に、姉ちゃんの胸騒ぎとか言うの、聞かせて」

うーん、と伊吹の学習机の椅子にもたれかかり、小夏はすらりと長い足を組んだ。

「夏の終わりごろからね、同じような夢を見るようになったの」
「・・・夢って、どんな?」
「あんたと、真っ黒い獣の夢」

冷やりと伊吹の心臓が痛む。

「あたしは夢の中で巫女さんでね。真っ黒い獣を封じて、死んじゃうの。獣のそばで、あんたがずーっと泣いてて・・・その獣は、瑞なのね。憎しみに捕われて死んだから、呪われた姿をしていて・・・」

それは、あの「鏡月記」に綴られていた内容と、伊吹が夢でみたそれだ。
伊吹は、これまでにあったことを語って聴かせた。鏡月記、先祖が瑞に何をしたか。そして自分がゆくゆく婚姻する花嫁が、そのときに死んだ瑞の妹であることも。

話を聞き終えた小夏は、ふうんと小さく息をつく。反応が鈍い、といぶかしんだ伊吹は、次の瞬間、衝撃の答えを聞いた。

「なんとなく、知ってた。それ」
「ええっ!?はあ??いつ知ったの!?」
「いつからか知ってた、としか言えない。別にあんたみたいに書物を読んだわけでも夢をみたわけでもないの。血が、或いは魂が、記憶してたとでもいうのかなあ。最初から」

そういうこともあるのか、と伊吹は前髪を整える姉を見つめて唸る。
小夏は、たぶん歴代の神末の女性の中で、みずはめの影響が魂に色濃く出ているのだろう。伊吹はそう予想する。

「・・・これも、導きなのかな」

瑞を救うために、この時代に生を受けた伊吹と同じように。
小夏もまた、みずはめの魂を救うために生まれてきたのかもしれない。
この時代に、伊吹と同じようにして。

「それで姉ちゃん、呼ばれてるって何に?」
「たぶん、お役目様の花嫁に。そんな気がするの。何か変革の予兆だと思ってる」
「・・・俺が魂のよりしろであるあの櫛の封印を解いたことで、瑞が記憶を取り戻してるんだ。それが関係してるんだと思う」