風、彼方より舞い戻る 神末家綺談8
「なんでかな、ミョーな胸騒ぎっていうの?あんたに何かあったかと思って、帰ってきちゃったよ。学校もしばらく行かなくていいの。家の神事でってことで公欠扱いにしてもらってる」
「そうまでして里帰り?胸騒ぎ・・・って?」
「なんか、なんていうのかな。呼ばれているような気がして」
瑞と同じことを言う。伊吹は立ちすくみ、またしても形のない不安に侵食されていくのを感じていた。
(姉ちゃんにも、瑞の血が流れてる。女性だから、みずはめの血の影響も濃く受けているはずだ。でもどうして、この時期に・・・?瑞と同じタイミングで呼ばれているなんて言うんだろう・・・)
「あんた、真っ青だよ。なに?」
「・・・姉ちゃん、俺、あのさ・・・」
「うん?」
世継ぎを産む姉にだって知る義務があるだろう。己の血のその起源を。
「話しておきたいことが、あるんだけど・・・」
「なんか深刻そーだね。かまわないよ。ご飯食べたら、ね」
「うん・・・」
居間に行くと、温かなご飯が湯気をたてていた。明るい食卓に、すでに瑞が座っている。
「ばあちゃんのご飯久しぶり、嬉しい!いただきます!」
「向こうでちゃんと食べてるの?元気そうでよかったこと」
「あたしは元気だよー。こっちも変わりないみたいで安心した」
なごやかな夕食の席で、伊吹の心だけが重い。小夏が戻って嬉しいのに、不吉な予感がその喜びに影を落とす。
(・・・なんだろう、なんでこんなに怖いのかな、俺・・・)
不安で仕方ない。
「・・・どうした、食べないのか」
「え?」
瑞に言われて我に返る。
「・・・食べるよ、なんでもない」
おまえのせいだ、と理不尽な怒りが瑞に沸いてしまう。不安にさせてくれるなよ、と。
一体何がおまえを呼ぶんだ?虚空の向こうに何を見ている?
「あんた成長期に食べないと、あたしみたいにおっきくなれないよ。サッカー頑張ってんでしょ?」
「姉ちゃんはでかすぎるよ」
「でかいって言うな。長いって言いな」
「それもどうかと・・・まあ、うらやましいくらい長いけど、実際」
たらふく食べた小夏が、手早く洗い物を済ませる。米をといで佐里と明日の仕込みまで終わらせてから、彼女は伊吹の部屋にやってきた。
作品名:風、彼方より舞い戻る 神末家綺談8 作家名:ひなた眞白