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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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風、彼方より舞い戻る 神末家綺談8

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闇の中に彼の姿を見たとき、驚いたというよりはほっとした。迷子の子どものように膝を抱えた伊吹が、開ききった目で絢世を見つめている。絢世は魅入ったように屈みこんだ。

「・・・伊吹さん?」
「――・・・・」

低く、うめくような声をあげて抱きついた伊吹が、絢世の肩に顔を埋めた。がむしゃらに、まるで溺れている者が広く暗い海で見つけた流木にしがみつくように。伊吹から発せられる嗚咽が、風のように鳴る。
泣いている・・・。冷たい風の中で、伊吹の身体は熱い。小刻みに震える肩を抱いて、絢世は自分も泣きそうになるのがわかった。

指先を通して伝わってくる、やるせなくてどうしようもない伊吹の感情。

「・・・何も残らない、」

嗚咽が大きくなる。むせび泣く伊吹の身体が激しく震え始め、それでも声をかけることはできなかった。

「嫌だ、忘れたくない・・・」
「伊吹さん・・・」
「・・・名前も、呼べなく、なる・・・嫌だ・・・っ・・・」

伊吹の身体の震えをとめたくて、絢世は力をこめて彼を抱きしめる。

夢に見た、瑞。あの別れの予感は、おそらくそう遠くない未来のビジョンなのだ。
瑞は、いなくなる。たぶん、二度と会えないし二度と思い出せない。そういう、別れなのだ。