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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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風、彼方より舞い戻る 神末家綺談8

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(みずはめが、泣いている)

彼女の心が泣いている。その揺らぎが穂積の力を緩め、村中の結界の力が弱まっている。境目が揺らいでいるのだ。穂積が小夏を連れ、結界を張りなおしに向かった。

(だがそれも、一時の気休めでしかない。力の源を正さない限り)

そんなことは穂積もわかっているはずだ。おそらく穂積は待っているのだ。瑞と伊吹を。

互いの心に決着をつけるまでは時間を稼いでやるから、別れの準備を整えよ、と。

(・・・紫暮と絢世がいるな)

二人の気配もかすかに感じる。みずはめが呼んだのだろうか。

(伊吹)

泣いている伊吹をおいてきた。
何を言っても、どう慰めても、どうにもならないことを知っている。それは決して投げやりな態度ではないのだけれど、伊吹のことを思うと胸は痛んだ。好き勝手を言って、これを全部受け入れろと、瑞はそんな暴力にも似た一方的な要求をしたのだから。


――瑞の何が、俺に残るの?


伊吹はそう言った。何も残らない。思い出、ぬくもり、そのすべてが綺麗ごと。過去が改変されて、一切合財なかったことになる。

受け入れられるわけがない、それは瑞にだってわかる。拒絶、諦観、今までで一番、伊吹を傷つけたと思う。

(それなのに、こんなにも伊吹を近くに感じる・・・)

静かに目を閉じるとわかるのだ。
拒まれ、すれ違って。
心が離れても。

これまでのどんなときよりも、伊吹を強く感じる。気配を、心のあり方を、ぬくもりを。
これはまだ、ちゃんと繋がっている証なのだ。

(だから、俺は待つ)

ここに伊吹が来るのを。山の鳥居を仰ぐ。あの向こうで妹が泣いている。必ず、伊吹は来る。確信していた。




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