風、彼方より舞い戻る 神末家綺談8
(だって、こんなのってないだろ・・・)
心を交わしたのも、手を取り合って乗り越えた日々も、すべてこの別れのためだったなんて。闇に涙が零れていく。
もっと別の運命があったら、友だちとして、兄弟として、或いは親子として、一緒に生きていく道も選べたのだろうか。魂は巡るというけれど、どうしてこんな形で出会ってしまったのだろう。
(・・・それでも、出会わなければよかったとは、もう思えない・・・)
こんなにつらくても、瑞を知らずに生きるよりましだと思うのだ。こんな自分に、どうしろというのだ。もうどこにも行けない。どうしたらいいのか、わからない。
「・・・?」
ふと、柔らかな明かりが足元を照らした。懐中電灯?
伊吹さん、と静かな声で呼びかけられた。
「伊吹、さん?」
現れたのは、絢世だった。
どうして絢世が、こんなところにいるのだろう。そんな疑問は吹き飛んで、伊吹は手を伸ばす。救ってくれ。底なしの夜から。そんな思いだけをこめて。
.
作品名:風、彼方より舞い戻る 神末家綺談8 作家名:ひなた眞白