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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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風、彼方より舞い戻る 神末家綺談8

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街灯もない。村はずれのこの原っぱは、子ども達のかっこうの遊び場だった。ススキが風に揺れて風情のある風景は一変し、いまはべったりとした闇だけが広がっている。

ぐちゃ、と泥を踏むような音が、前方から聞こえる。誰かが、歩いてくる。

(生臭い・・・)

一本道の細い農道。両側は田んぼと用水路。暗くて避けるのは危険だ。すれ違うしかない、と伊吹は覚悟を決めて静かに呼吸を整える。

(・・・生きている人間じゃない。夏に、川で遭遇したやつに似てる・・・村にはいま、こんな連中が徘徊しているのか・・・?)

気配を消す。目を閉じる。

ぐちゃ、ぐちゃ、とその音は二足歩行を思わせる。すれ違いざま、耳もとに生温かい風が吹きかかった。

「・・・・・・」

反応してはいけない。伊吹は知らないふりを貫く。息を殺して。

ぐちゃぐちゃという足音が行ってしまい。伊吹は駆け出す。怖い。夜はもう、人間の出歩く時間ではなくなっている。

「はあ、はあ、はあ・・・」

街灯のあう村の一本道まで戻る。大きな製材所のある場所は、ちょうど自宅と反対側にああたる。明かりを見てほっとできたのは一瞬で、明かりがあろうと安心はできない。

(・・・じいちゃんは事態を把握してるはずだけど)

こんなことって初めてだ。伊吹は静まり返った製材所の隅に座り込む。

(どうしよう・・・)

家に戻る気になれない。伊吹は膝を抱える。
もう、どこか遠くへ逃げてしまいたい心境だった。瑞がいなくなるその瞬間、そばにいるのがもうつらい。どんなカタチで彼の願いが叶うにせよ、それに立ち会うのが怖い。

(このまま・・・会えないまま・・・俺が義務も全部放棄して逃げ出せば・・・瑞が消えてなくなることもないのかな・・・一生会えなくても、ずっとあいつのことを覚えていられるなら、そのほうがいいのかな・・・)

会えなくても、覚えていられるのなら、そのほうがずっといいような気がする。
瑞のいない日々を、瑞のことを思い出すこともないまま過ごすよりも、苦しみを抱えて生きていくほうがよっぽどましだと、そんな気さえする。