風、彼方より舞い戻る 神末家綺談8
弟は、昼間、家を出たきり戻っていないのだという。学校を休んで何をしているのか、と憤りたいのはやまやまだが、おそらく瑞と何かあったのではないかと小夏は踏んでいる。
「伊吹なら心配はいらん」
「・・・うん」
「瑞は居場所を知っていよう。何かあれば守れと厳命してきたからな」
式神は伊吹のために置いてきたということか。
「いまは好きにさせてやろうと思う」
「・・・あたしはよくわかんないけど、あいつこのまま戻らないつもりかもよ」
「・・・それも伊吹の選択だ。わたしはそれを許してやりたい」
「なぜ?」
「一族の呪いがいま、全部伊吹の肩にのっているからだ」
弟が苦しんでいる。自分たちに出来るのは結局、見守ることだけというわけだ。
「そんなわけだから、自分の身は自分で守ることにしようか」
いつものように穏やかな口調だが、穂積とて心配でないはずがない。変調が始まっている、その焦りもあるはずだ。小夏は、自分にできることをするしかない。
「そうね。行こう、大伯父様」
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作品名:風、彼方より舞い戻る 神末家綺談8 作家名:ひなた眞白