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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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風、彼方より舞い戻る 神末家綺談8

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夜闇が落ちた村。ざわざわと風に木が鳴く。小夏はスニーカーをはいてマフラーを巻いた。かなり冷え込んできた。

「準備はいいか」
「まかせて。伊吹ほどではないけれど、役に立てると思うから」

コートを羽織り、穂積とともに冷たい夜のなかに出る。

(こんなこと今まであったかな、結界が弱まっているなんて)

きっかけは、今朝の穂積との散歩だった。彼が早くから出歩いていたのはただの散歩ではない。数日前から不穏な気配を感じていたようだ。

村は、山に囲まれるように存在している。山には神末家の神がおり、婚姻関係を結んだ長男の力により守られている。古い土地であり、まだ山や川などの自然にも力が宿っている。それらの力が人間の住む場に干渉しないよう、結界を張るのもまたお役目の仕事である。

その結界が弱まり、結界の力「境目」が曖昧になっている。こちらのものと、あちらのものが、徐々に交じり合っているというのだ。

(境目の結界が弱まっているということは、お役目の力が弱まっているということ。すなはちそれは、花嫁の力が弱まっているということなのかな・・・)

小夏はこれから穂積とともに、村に点在する「境目」のほころびを直しに向かうところだった。昼間偵察したところ、確かに境目の力が弱まっていることを確認した。

「村の者からも、幾つか報告を受けた」

穂積が先を歩きながら言う。暗い石段を降りる後姿を、小夏は追いかけた。

「報告?」
「そう。夜中、得体の知れぬ何かが家の外を歩き回っているだとか・・・飼っている鶏が減っているだとか・・・そういう不可思議なことが少しずつ増えているようだと」
「・・・見えない何か、聞こえない何かが、村の中を徘徊している・・・ってことだね。曖昧になった境目の向こうから、這い出てきている」

本当なら、こういうとき穂積につき従うのは跡継ぎの伊吹なのだが・・・。

「こんな夜にあのバカは・・・」