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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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風、彼方より舞い戻る 神末家綺談8

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「伊吹」
「・・・うん?」
「聞いてくれるか?」

瑞がこちらを見ている。そして。

「俺の願いを、言うよ」

ああ、やっぱりそうなのか。そのときがきたんだ。伊吹は冷静にそう感じた。
瑞がいつか心を開いてくれることを待っていた。少しずつ信頼関係を築いていけば、いつか穂積にしか伝えていない願いを教えてくれる日が来ることを待っていた。

だから、嬉しいはずなのに。


「・・・俺の願いは、すべてをなかったことにすることだ」


なかったことに、する?

「雨ふらしの力もなく、殺害されて食われることもなく・・・妹と一緒にただの人間として生きていく・・・そんな生を望む」

瑞の目が、伊吹を見た。覚悟を決めた者の目だった。迷いがない。

「その願いが叶えば、すべてがなかったことになる」
「・・・どういう、意味?」
「俺が食われた歴史がなければ、おまえたちの一族に宿る力はなくなる」

陰陽師としての力を失う、そういうことだろう。

「そして、俺が式神として仕えてきた歴史も消える」

歴史が消える?

「おまえたちが、俺という魂に出会ったという事実も消える」

それは決定的な言葉だったが、混乱している伊吹にはうまく噛み砕けない。黙り込んでいる伊吹を気遣うようにしばらく沈黙した後で、かみ締めるように続けた。

「俺の魂を開放し、血肉を返したその瞬間に、歴史が巻き戻り、俺のいなかったおまえたちの時間が、歴史が、始まる。俺と、神末家の人間たちが出会うことのない歴史だ」

瑞がつらそうな表情になった。迷いのなかった目に、隙が生まれるのを伊吹は見逃さなかった。