風、彼方より舞い戻る 神末家綺談8
深く眠ることもできず、夢と現の曖昧な部分をずっと漂っていた。起き上がる気力もなく、学校を休んでじっと横たわる伊吹の中には、戸惑いと不安が渦巻いている。布団の中でじっと丸まっていると、襖がノックされた。
「伊吹、いいか?」
瑞の声だ。音もなく襖が開いて、彼が入ってくる。
「・・・瑞」
「気分は」
「・・・ありがとう。平気だ」
嘘でもついて自分を鼓舞しないと、いつまでもこのままだ。伊吹は起き上がった。
「外の空気を吸いに行こう。今日は天気もいいし、気持ちいいから」
この誘いは、気を遣ってくれているのか、それとも。
「・・・わかった」
パーカーを羽織って部屋を出る。外は心地よい秋晴れだった。金木犀の匂いがあふれるように漂ってくる。紅葉が美しい。空は高く、青色は薄い。うろこ雲が横たわっている。
「・・・姉ちゃんとじいちゃんは?」
「二人して出かけてる」
「ばあちゃんもいない」
「畑にいる」
「・・・ふうん」
言葉少なに歩きながら、家から離れる。村へと続くいつもの石段に腰かけた。風が気持ちいい。伸びた髪を優しく通り抜けていくのが心地よくて、心がほんの少しだけ軽くなった気になる。
(何か言ってくれよ)
沈黙が恐ろしい。隣の瑞は、同じように遠いところを見つめているようだった。何か、決定的な言葉が瑞の言葉から紡がれる気がして、伊吹は不安になる。
作品名:風、彼方より舞い戻る 神末家綺談8 作家名:ひなた眞白