猫の髭は七つの夢をみる
翌日、人の住処の檻の中、柵の隙間からベランダへと入り込んだ。
閉めきられた硝子窓の向こうに人の気配はなかった。
オレは、がっかりしたのだろうか…… サンダルの匂いを嗅いだ。何故か安心した。
夕暮れも過ぎ、景色は暗さの中にあった。オレの目もやや開き加減になっていた。
散歩の途中、通りすがりにあの、人の住処の中から漏れ出した明るさに オレは引き寄せられた。――明るさにというと 虫のようだな、どう言えばかっこいいかな――ベランダに入り込むと さっきまでなかったものが置かれ、その中に昨日食べたものの数倍は匂いを放つものがはいっていた。その匂いに寄せられたのかもしれない。
匂いで誘う危ないものではないだろうか? いや、オレは猫だ。
オレが ヤツラを嫌う人がしかけた罠にホイホイひっかかるようなことはないさ。足元もべたべたした粘着物はなさそうだ。
オレは 鼻先を器に突っ込み 入っている粒状のものを口に入れた。
カリカリっと小気味良い音が 頭蓋骨の裏に響く。舌先には僅かな塩気と円やかな風味の魚の味がした。ひと粒がふた粒・・・・・・ そんな思考は瞬時にふっとび がつがつと食らうだけに執着していた。気が付けば、器の中は舌の届きにくいところに数粒ずつ残っているだけだった。オレが食べて良かったのかな、などと やや良心が咎め、回りをしばらく見据えていたが 誰も他の猫も来る様子はなかった。
作品名:猫の髭は七つの夢をみる 作家名:甜茶