猫の髭は七つの夢をみる
「これは どうだ?」
人は 隠れた掌が見通せる穴が開いた細い筒状のものをくねくねと揺らし持っていた。オレの誘われた匂いと同じものだ。
くれ! その言葉を飲み込み我慢しながら、視線は人からそれに移っていた。
「手持ちじゃ来るわけないか。じゃあ置いておくぞ」
人は、オレの居る場所と同じ高さまで降りてきた。オレは、後退りし 警戒して背を丸めた。目の前数十センチの所に置かれたそれに すぐには飛び掛りはしない。
待つ。チャンスは来るはずだ。慌てて数日振りの食を失うわけにはいけない。
そうだ。オレは、腹が減っている。焦ることはない。今まで待ってきたのだ。
人は、それを置いた。人がここで履いているサンダルの上。オレは、砂や微塵付きのそれを食べることないようにと気遣いされたようで胸の奥がくすぐったかった。
人が部屋の中に戻っていった。姿すら隠れて見えなくなった。
オレは 匂いを確かめ端っこに歯を入れた。グニッと歯に抵抗を感じ、そのまま食いちぎった。クチュクチュとやや音を立てながら噛み砕いた。
旨い。そう思った。泣けるほどではないが 喜ぶ気持ちが溢れた。
「にゃぁ」鳴いていた。
食べながら サンダルに移った人の匂いを感じた。太陽に照らされたゴムの匂いに混じって たぶん さきほど見た人の匂い。不思議と嫌でなかった。
食べ終えて、窓を見上げたが 人の姿は見つからなかった。別にお礼をいうつもりではなかったが気になった。オレは、満腹ではなかったが棲み処としている場所へと帰った。
作品名:猫の髭は七つの夢をみる 作家名:甜茶