猫の髭は七つの夢をみる
それからしばらくの間、オレは人の住処に立ち寄りはしなかった。
いや 本当は通り過ぎては 様子を眺めていた。知らないヤツが立ち寄っているのも何度か見かけた。だけど、食料を巡って争いになることは避けたかった。
なんだろう…… 始めは 檻のように思っていたベランダが 今は安心の場所と感じている。野良の誇りから 解放されてしまうのだ。
弱い雄になったなら 縄張りを追われるようなことになったなら カノジョやオレの仔猫たちを守ってやれない気がした。カノジョは 強い。だけど頼られたときには 身を投じて守ってやりたいのだ。
ある日、オレは道を横切るカノジョを見つけた。どうした? 少し痩せたか?
すると、小さな猫がひょっこり周りをついて歩いていた。二匹? いや四匹だ。
オレは 久し振りにベランダに入って行った。此処に居れば 会えるだろう。
人は、いつものように食料を置いてくれていた。きっとオレが立ち寄らなくても そうしてあるのだろう。カノジョやカノジョの友だちは ごちそうになっているのかな。
オレは、目の前の食料を見ても なかなか食べる気持ちにはなれなかった。
何というのか…… ありきたりの台詞だけれど 胸がいっぱいだった。
人が 時折ベランダを覗いている。オレを待っている様子ではない。おそらく カノジョと その仔猫たちを待っているのだろうと思った。
オレが紹介するまでもないようだ。一緒に待たせてもらうよ。
作品名:猫の髭は七つの夢をみる 作家名:甜茶