猫の髭は七つの夢をみる
それから、オレはベランダに行くことがなかった。その代わり、カノジョが出かけていたようだ。人は、オレの時よりも 好意的にカノジョを迎え入れてくれたようだ。
やっぱり ほえておいたのが効いているのだな。
カノジョは、友だちを連れて行ったりもしていたようだ。カノジョが帰って来ると 違う獣の匂いがした。
オレは、二、三度 カノジョの頚を甘噛みした。妬きもちなんてことじゃない。あの住処の人を思い出していた。今は カノジョの方が人の近くにいるのだから……。
暫くして カノジョの様子が変わった。身ごもったのだ。
産むための 育てるための 場所を見つけてやらなければと オレは街を歩き回った。
ここらには 野良の猫も多く棲む。まあオレもカノジョもそうなのだけれど、カノジョが 安心して出産、子育てができるところがいる。
やや大きくなった腹で あのベランダに出かけて行った。食料を食べ終え、横たわっていると人が様子を見ていたそうだ。不思議そうに でも優しい眼差しだったとカノジョは言った。
そして、オレにもこんなことを言った。
『大丈夫よ。だからしばらくそっとしておいて。いい棲み処を見つけたわ。(オレが)出入りすると他の猫が知って 近寄って来ると嫌なの』カノジョの気丈な態度はオレを圧倒した。
母になるのは 強いな。そういえばオレのおふくろも… なんてな。思い出してみるが 感傷にはひたっていられない。オレも気を引き締めて この街で生きていかなければと思う。
夢がまたひとつ 花開こうとしていた。
作品名:猫の髭は七つの夢をみる 作家名:甜茶