初恋はきみと
咳き込んだ瑞が目を覚ます。しんどそうだ。半分だけ開かれた瞳が、佐里の姿を静かに捉える。
「・・・佐里」
「何ですか」
不安そうな顔で、佐里を呼ぶ瑞。安心させるように笑いかけてやる。
「たまごがゆ、食べたい・・・」
「伊吹がいま作ってますよ」
「りんご、すって」
「はいはい。あなた昔から、そればっかり」
すったりんごが好きなのだ。病人でもないのに、昔からすって食べたがる瑞がおかしくて、かわいらしくて、佐里は笑う。おい娘、りんごをすれ、なんてえらそうに催促されたことが昨日のよう。
あれから何年経ったのだろう。自分は老いた。瑞は昔のまんまだ。それでも、瑞はまだ佐里を妹のように扱う。心配でたまらないのだというように世話をやき、いつだって温かく見守ってくれていることを知っている。
瑞にとって自分は、出会った頃の小娘のままなのだ。こんなしわくちゃになったというのに。佐里はそれが嬉しくて、おかしい。とても。
「佐里」
小さな枯れた声とともに、手を差し出された。握ってやる。熱があるというのに冷たい手だ。昔から。それでも、この手の持ち主の心は誰よりも温かい。
「幸せか?」
うわごとのように尋ねてくる。あの頃と同じ。幸せになれ。あなたはいつもわたしに言った。自分の幸福を放棄しても、心を許した他人にそれを与えたいと願う心情が、不器用で、愛おしくて、かわいそうだった。この傷だらけの魂を、めいっぱい愛して愛して愛して、いつか幸福だと笑わせてやりたいと、佐里はずっと願ってきた。
「佐里、幸せか?」
再びの問いかけ。