初恋はきみと
「ばあちゃん・・・俺の名前って、瑞がつけたの?」
尋ねると、祖母は柔らかく笑って頷いた。ヒエピタを瑞の額に貼りながら、懐かしそうに紡ぐ。
「そうですよ。修二さんの手前、お役目様がつけたということになっているけれど、伊吹と名づけたのは瑞。亜季もそれを望んだのよ」
伊吹。命を運んで吹いてくる風の名前。
「・・・俺、大事にするよ、この名前・・・」
そこには祈りが込められている。まっさらな愛情がこめられている。穂積が瑞と名づけたのと同じように。
「与えてもらうばっかりで、何も返せないな」
ひとりごちた伊吹の言葉に、静かに首を振るのは佐里だった。
「そんなことありませんよ。この子、おまえからたくさんのものをもらったと、そう言っていたもの」
「・・・そうかな」
「誰だってね、他の誰かに何かしら与えてもらいながら生きている。お互い様、ね」
お互い様。その言葉は妙にすんなりと伊吹を納得させてくれるのだった。
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