初恋はきみと
佐里がそうしていたように、瑞の額に手をのせてやる。
「・・・なんか、話してないと・・・」
「大丈夫」
珍しく不安そうな瑞に笑いかけてやる。一人になるのが怖いのだろうと、伊吹はなんとなくそう感じた。
「・・・・・・・」
ゆっくりと、その瞳が閉じられると、やがて穏やかな寝息が聞こえてきた。
(よかった・・・眠った・・・)
うわ言のように零れ落ちた瑞の言葉を反芻しながら、伊吹は膝の上で拳を握る。熱くなる瞳の奥。
幸せになれと瑞はいう。
(・・・おまえから幸せを奪ったのは、俺たち神末の血なのに)
憎しみと、血を分けた子孫への愛情の狭間で揺らいでいるのかもしれない。
その複雑な胸中は伊吹には計り知れないが、自分のやるべきことはただ一つだ。
「・・・おまえを忘れて幸せにはなれない。俺はおまえも幸せにするぞ」
おまえの望む願いが叶った先に、おまえの幸福があるのだというのならば。
「・・・それが、俺の、幸せなんだからな」
だから絶対に負けない。自分の中の寂しさや弱さに、挫けない。瑞のことを思えば思うほど、伊吹は強くなる自分を感じる。へこたれるな、と涙を拭いて立ち上がることができるのだ。
「眠ったのかしら」
「ばあちゃん」
水差しと薬を盆に載せて、佐里が戻ってきた。