初恋はきみと
「でも瑞、俺のお嫁さんは――」
決まっている、と言いかけて飲み込んだ。神末の長男がめとる花嫁は、遠い平安の世で瑞の妹だった女性なのだ。その魂はいまもあの神社の鳥居に封じられている・・・。
(瑞の願いが叶えば・・・妹の魂も救われるのかな・・・そうしたら俺は、どうなるんだろう)
神と婚姻できなければ、力を失う。神末家は、特別でも何でもなくなる・・・。
(それが・・・瑞の願いなのかな・・・)
その真意を、まだ伊吹は聞いていない。知っているのは、彼の願いが叶えば二度と会えなくなるということだけだ。
「・・・瑞はさあ、誰かを好きになったことあるの?」
急に聴きたくなった。
「・・・それって恋バナとかいうやつ?」
「・・・もしかして、ばあちゃんのこと好きだったんじゃないの?」
気の強い女がいいとか言うくせに、彼が心を許して自分を晒すのは佐里くらいのものではないか。きっとそうに違いないと伊吹は踏んでいるのだが、瑞は肯定も否定もせずに、面白そうに笑うのだった。
「佐里は・・・清香とは正反対の女だったな。俺がこの姿になった頃はまだ女学生で、三つ編みあんでモンペはいて・・・いつもオドオドしてた」
「瑞のことが怖かったんじゃないのお?」
「その割に、世話をやいてくれたな」
聴けば穂積以外の人間に無頓着で攻撃的だった瑞を、何かと気にかけてくれたのは佐里だったという。
「佐里が祝言を挙げたとき・・・俺と穂積は本当に心配したんだぞ」
「おじーちゃんは優しい人だったよ?」