初恋はきみと
咳をして苦しそうな声が背中から聞こえる。慌てて佐里を呼びに行くと、祖母は落ち着いた動作で体温計を探しだして瑞の枕元に座った。
「瑞?しんどいの?」
「・・・喉が痛いのと、身体が痛くてだるい」
「風邪かしら」
体温計は38度を示し、佐里はまあと眉根を寄せた。
「佐里・・・何なのこれ・・・」
「風邪ですよ。栄養をとって、あったかくして、寝ていれば大丈夫」
「しんどいよ・・・」
「そうね、かわいそうに」
皺だらけの手が優しく瑞の額にのせられる。瑞が安堵したように目を閉じるのを見て、伊吹は不思議な気持ちになる。瑞は佐里に、こんな弱い自分を見せるのかと、意外に思うのだった。伊吹や穂積の前では見せない姿だ。
「氷枕と、それからおかゆを作ってくるわ。お薬もまだあったと思うのだけど」
寝ているのよと言い残し、佐里が部屋を出て行く。
「・・・寒い」
「あ、毛布出してあげる。先週干して、押入れに入れといたやつ・・・ほら、あった」
「・・・すまん」
弱っているせいなのかやけに素直だった。気持ち悪いと思いつつ、熱のせいでかわいそうに、と伊吹は同情しておく。枕元に座る伊吹に、目から上だけ布団から出した瑞のくぐもった声が届く。
「おまえもああいうのを嫁にもらえよ・・・幸せにしてくれるぞ・・・」
「は?」
「佐里みたいな、だよ」
枯れた声でそんなことを言う。黙って眠っていればいいのに。弱っていると饒舌になるのか?それとも話がしたいのだろうか。