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質草女房

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「ああ、そいつはありがてぇ。これからは心根を入れ替えて、仕事をするともよ。だがなぁ、おかねがもし売り飛ばさられているかと思うと……」
 一旦は明るくなった長吉の顔がまた沈みました。
「俺も駆け出しのころは亀屋さんに随分と世話になったもんだ。大丈夫、亀屋さんはそんなお人じゃねぇよ。それより長吉、お前、仕事が軌道に乗ったらお参りを忘れるんじゃねぇぜ」
「お参り?」
 長吉が素っ頓狂な声を上げました。長吉はもちろん、新次も神や仏にすがるような男ではありません。
 長吉の驚いた顔を見て新次が言いました。
「お参りって言ったて、浅草寺に通うんじゃねえぜ。お前が通う先は亀屋さんだ。あれだけのことをしたんだ。金が出来てもおかねさんがそう簡単に許してくれるわけはあるめぇ。だから、お前はおかねさんのところへ通い詰めて、許しを請うってわけよ。そのためには、お前が怠け癖を治し、しっかり働いて、今までのことを反省しておかねさんに誠意を見せなきゃならねぇと思うよ」
 長吉はその新次の話を聞いて、俯いて固く拳を握り締めて呟きました。
「まったくだ……」
 そして、長吉は新次を見上げます。その目は熱い光を湛えています。
「新次、お前さんの言う通りだよ。俺はやり直す。たとえ何年かかるとも、もう一度おかねと多助を呼び戻すぞ」
「そうか。じゃあ、俺の知り合いの材木屋に早速、行こうじゃねぇか。それと、これは当座のお前の生活のお金だ。取っておきな」
 そう言うと新次は長吉の前に二両の小判を置きました。黄金色の小判が窓から差し込む陽の光をもらって、鮮やかに輝いています。
 長吉は震える手でその小判を掴みました。
「に、二両も……。本当にいいのかい?」
「ああ、材木屋の仕事は厳しいぞ。飯が食えなきゃ、力も出ないだろ? それと、いいか? それはあくまでお前が暮らしのために使う金だ。その金でおかねさんを身受けしようなんて思うんじゃないよ。おかねさんはお前が稼いだ金で身受けするんだ」
「わかってる、わかっているともよ」
 長吉は新次と小判に頭を下げました。
「よし、じゃあ行こうじゃねぇか」
 新次がそう言って席を立ちました。その後を長吉が着いていきます。
 浅草の賑わいが、ようやく長吉の目にも鮮やかに見えてきました。

「ちょいと、おかねさん」
作品名:質草女房 作家名:栗原 峰幸