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質草女房

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「暮らしを切り詰めて必死に溜めたんだ。お前や多助のことを想ってな」
「お、お前さん……」
 おかねの表情から硬さがとれ、頬が緩みました。
「さぁ、持ってってくんな」
「それでは、旦那様から言われた金額は二両ですから、二両だけいただきます」
「いや、亀屋の旦那にはだいぶ迷惑掛けたからな。迷惑料含めて三両、持ってってくれ」
 長吉がおかねの顔を真剣に見つめました。
「わかりました。お預かりしておきます」
 おかねが「では」と言って立ち上がりました。それを長吉が引き留めます。
「外はもう暗いから、亀屋さんまで送っていこう」
 長吉が提灯に灯りを灯します。
「ありがとう……」
 おかねがほんのり赤い顔をしました。

「おや、お二人さん揃って来たかい?」
 亀屋の暖簾をくぐった、長吉とおかねの姿を見て利兵衛がにこやかな笑顔で言いました。
「旦那様、うちの人がどうしても三両返したいって……」
 おかねが利兵衛を見て、少し困ったような顔をして言いました。
「ほう……」
 利兵衛は驚く様子もなく二人の顔を見つめます。
「旦那さん、今まで本当に済まなかった。一両は迷惑料だ。取っておいてくれ」
 長吉が頭を深々と下げました。
 利兵衛は「ふーむ」と深く頷くと、腕組みをしました。
「わかりました。じゃあ、三両いただきましょう。おかねさん、御苦労様だったね。それと長吉、もうこれでおかねさんを預かる理由もなくなった。連れてお帰り」
 おかねも利兵衛に深々と頭を下げると、長吉から取り立てたお金を利兵衛に渡し、奥の間へ行って帰り支度を始めました。
「どうじゃ、よい薬になっただろうが?」
 煙管に火をつけた利兵衛が、クスッと笑って長吉に尋ねます。
「へい、そりゃあ、もう……」
 長吉が照れたように笑いました。
「それに、あの時、仕事を失ったお前さんは女房子供を養っていけなかっただろう」
 その利兵衛の言葉に長吉はギクリとしました。確かに仕事を失った時、そのままではおかねと多助を養っていけたかどうかわかりません。
「そ、それじゃあ、旦那はわざとおかねと多助を・・・・・・」
「その方がよかったはずだ」
「あ、ありがとうございました」
 長吉は土下座をして利兵衛に感謝しました。
「ははは、いいってことよ」
 利兵衛が豪快に笑いました。
 そこへ多助が走ってきました。
「お父ちゃーん!」
作品名:質草女房 作家名:栗原 峰幸