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質草女房

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「そうかい、残念だったね。でも、元気おだしよ。あんたが今、しっかりやってんのは私たちが一番よく知ってんだからさ。今度、おかねさんに会ったら言ってあげるよ。そうそう、今日、うちで煮物作ったんだけど、おすそわけ」
「こいつは、すみません」
「とにかく、元気おだしよ」
 その一部始終をおかねは物陰から見ていました。長吉に煮物を分けてあげたおかみさんは、以前は長吉のことを嫌っていたおかみさんです。そのことからも、今の長吉が真面目に暮らしていることがわかりました。
「お帰り。今日はばかに遅かったね」
 亀屋に戻ったおかねに利兵衛が声を掛けました。
「ええ、ちょっと……」
 そう言うと、おかねは奥の間にそそくさと入っていってしまいました。
 利兵衛が煙管をフーッと吹きました。その煙が今のおかねの心のように揺らいでいます。
 利兵衛がクスッと笑って、何やら紙切れを出しました。利兵衛は目を細めてそれを眺めます。
「そろそろ、おかねさんに長吉の取り立てに行ってもらうか……」
 利兵衛はそう呟くと、煙管の火種をポンと落としました。

 翌日の夕方、お寺の鐘が暮れ六つを知らせる頃、利兵衛がおかねを呼びました。
「ちょいと、おかねさん。今日はこれからぜひ、あんたに取り立てに行ってもらいたいところがあるんじゃ」
「これから……、ですか?」
 おかねがいぶかしげな顔をしました。
「そうじゃ、菩薩長屋の長吉のところへ取り立てに行って欲しいんじゃ。おかねさん、あんたの身受け料だよ」
 利兵衛がニヤッと笑って、おかねの顔を覗き込みます。
 おかねは突然の利兵衛の話に困ったような顔をしました。
「そ、そんな旦那様。急に言われても……。それに、うちの人は今までお金を払っていたじゃありませんか」
「あのお金は、おかねさんと坊やの食い扶持だと長吉が言っていたよ。おかねさんが長吉のところへ戻る気持ちがあるならば、取り立てに行っておくれ」
 おかねは俯いて、指先を絡めたりしています。
「そ、そんな急に言われたって……。それに、うちの人が二両なんて大金を持っているかどうか……」
 おかねの煮え切らない態度を見て、利兵衛は言います。
「このままじゃ、利子がどんどん増えていくよ。長吉が借りたのは一両だが、今は利子がついて返してもらうのは二両だ。このままじゃ、三両にも四両にもなるよ」
作品名:質草女房 作家名:栗原 峰幸