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質草女房

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「亀屋の旦那を見損なってもらっちゃあ困るよ。そう簡単にあの着物を右から左へ売るような旦那じゃないよ。きっと欲しいのは、清吉さんやおりんさんの誠意だと思うよ。取り敢えず、少しでもいいからさ、ね」
 おかねにそう言われて、おりんは財布から銅銭を十六枚数えて、差し出しました。十六文と言えば夜鳴き蕎麦一杯の値段です。
「申し訳ございません。今、私どもにはこれだけしか返せるお金がございません。これ以上お返ししてしまうと、私たちが暮らしていけません。少なくて恥ずかしい限りですが、もしこれだけでよかったら、どうかお収め下さい」
 それを見て、おかねはニッコリ笑いました。
「いいよ、いいよ。旦那にはあたしから言っておくよ。返せる時に返しておくれ」
 そう言って、おかねが立ち上がりました。
「ありがとうございます」
 おりんは向き直ると、涙を浮かべてお辞儀をしました。
 亀谷では利兵衛がおかねの帰りを待ち侘びていました。
「おお、お帰り。どうだったね、お金は返してもらえたかね?」
 利兵衛がおかねに笑い掛けました。その顔は、お金などどうでもいいというような顔です。
「取り敢えず、十六文だけ返していただきました。でも、ちゃんと返すつもりはあるようですよ、旦那様」
 それを聞いて利兵衛はニンマリと笑い、
「ああ、そうか、そうか。おかねさん、よくやってくれたね。さぁ、初めての取り立てで疲れたろう」
 利兵衛はそう言うと、おかねに奥の間で休むように言いました。
 おかねがおりんから取り立てた十六文を利兵衛に渡すと、利兵衛は一旦それを受け取り、「坊やに飴でも買っておやり」と、また十六文をおかねに渡したのでした。

 まだ朝早く、暗い長屋の一室に、灯りがついています。長吉の家です。
 長吉は朝食の支度をしていました。恥を忍んで長屋のおかみさんたちから飯の炊き方を教わり、自炊しているのです。
「よし、今日の弁当もこれで出来た。さてと、朝飯にするか」
 長吉はご飯を掻き込みます。
 そして、朝食を食べ終えるときちんと自分で食器を洗いました。
 東の空が白々と明けてきた頃、長吉は仕事に出掛けました。先日から勤め始めた材木屋の仕事です。
「よし、今日も頑張るぞ!」
 長吉は勇ましく歩き始めました。
作品名:質草女房 作家名:栗原 峰幸