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未花月はるかぜ
未花月はるかぜ
novelistID. 43462
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そらのわすれもの5

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無言のやり取り。
緊迫した空気。

それでも、やっと琴恵がプリントを受け取ってくれたので、竜也はほっとする。

今日一日…正確には昨日知秋の件でやりあってから、ずっと、琴恵は竜也を空気の様に扱って、無視をし続けている。

竜也は少し考えてから、琴恵に話し掛けた。
「そう言えば、琴、口紅変えた?」
「…。」
まさかの話の切り出し方に、琴恵は竜也の方を向いた。
ただ、顔は呆れている。

への字に曲がった口許には綺麗な赤いリップが上品に塗られている。

それを眺めると竜也は唸り、珍しく腕を組み、言った。
「あー、やっぱり似合わないな…老けて見える。」
ものの数秒、空気が凍った。周辺の耳をそばだてていた先生達は顔を強張らせた。あっけらかんとしているのは、その言葉を発した本人だけだ。

琴恵は、先程と比べられない程の怖い顔をするとプリントで顔を隠した。

僅かに見える赤く塗られた口許はイとエの形を交互に作っている。
もし、発声をしていたら、恐らくそれは、恐ろしい言葉を紡ぎだしていたに違いない。

竜也は気に止めず、更に話を続ける。
「琴らしくないね…。まあ、琴も29歳か…。信じられないなぁ…小さな象の滑り台の上で、降りられないって、泣いて、お漏らししていたのになぁ。」