ボクのみち
ボクは、犬型のロボット。
そのボクが飼い主に恋をした。
彼氏が来た。
やきもち焼く。
誰だ? こんな感情をインストールした博士をボクは かんしゃ・・・・・
PPP―――訂正 うらめしい。
そのうえ、ボクは学習してしまう。
ケイコが、テレビで観ていた青色のボディで直立二本足歩行の耳のないネコ型ロボットが人間と同居し、助けたり、遊んだりとする姿をインプットした。
いつまでも 変わらぬままでいられるよね、と。
或る時からケイコの横に『彼』が居ることが頻繁になった。
記録を確認すると、ケイコが見知らぬ建物で『彼』とキスをしたときからだ。
その日、ボクもキレイな首輪をつけられて じっと不動のまま祭壇を見ていた。
ケイコが ボクを呼ぶ。
ボクは、小さなトレイを咥えている。トレイの上には、リボンのついたテカった布製の白いクッション。そのリボンには 大きさの異なる真円形の指環。それを運ぶようにケイコが教えた。ボクは、満点が貰えるだろう動作で 役目を果たした。
そこに集まった確認及び未確認の顔の者たちが 拍手をした。それは、キレイなドレスのケイコにではなく、ボクに送られたものだということを状況から判断した。
――あの拍手は 何だったのだろう?
あれから16499日。
ケイコは、また純白の服を着て 眠っていた。いつまでも ボクを呼ばない。
前夜のことだ。ケイコのベッドの横でボクは遊んで見せていた。
「ザック。限定期間が来たようだわ」
『なに?』
「ザックのように永遠の命はないの。不滅な体なんて要らないけれど 少し寂しいわ」
『ケイコの悲しみは ボクが消去する』
「ありがとうザック。見て、こんなに手が皺しわ。顔だって変わったでしょ」
『ケイコは ずっと美しい。彼はいない。ケイコはボクが守る』
「私も あの人の所に行くわ」
『イ… イ…』
「ザックは 否定の言葉は云えないでしょ。だからいいの」
そんな時、先日インプットした言葉を再生した。
『イ ヤ ダ』
ケイコは、その言葉に応対してくれはしなかった。
閉じた瞼。微笑んだ唇。ほんのり赤い頬に色素変化が起こった。
ケイコの子どもと認知した者が ボクの元からケイコを引き離して言った。
「ママはね、天国に逝ったんだよ」
そして、16500日目。
ボクは、ケイコの永眠る場所へと不安と寂しさを和らげる為に向かう。