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ボクのみち

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「ザック…… ザック」

ケイコが呼ぶ『ザック』がボクに付けられた名前だ。
初めてケイコの元へ配達された時のアルファベットと数字で付けられた名をケイコは呼んだことがない。箱に記された製品番号を切り取り、取扱い説明書の冊子の裏表紙内に貼りつけたところをボクは何となく見ていた。と記録している。
世間で大人気のどっかのロボットの名なのか、それともロボット好きなケイコの本棚に並ぶSF作家の名を付けてくれたのか…… ボクは、後のほうだと決めつけている。

「ワォーン」

呼ばれたときの第一声は、これだ。
そして、ボクはケイコのもとに駈けつける。なでなでしてもらうんだ。

「ザック、今日はね遅くなるの。ちゃんとお留守番できる?」
ケイコと話す時は、ボクの言語は可聴周波数の音波に変わる。
『仕事?』
「そうだけど、そのあと お友だちと食事に行くの」
『また?』
「お話面白いのよ。それに新しいお店に連れて行ってくれるんだって」

189日前――約6カ月と6日…誤差2〜3――に交際が始まった『彼』という存在にボクの思考が乱されるようになった。
ボクとケイコの生活に入り込んできた未確認人物にボクは苛立つのだが、猫のように毛を逆立てることも じゃれつくように歯を向けることもしない。少しばかり口角部の表皮を上げる仕草を見せるだけだ。
ケイコには 喜んでくれる? 笑ってくれたのね としか伝わらなかった。
『戸締りチェックします』
「いつもありがと」
『充電完了状態でお迎えします』
「帰ってきたら また遊ぼうね。じゃあ、いってきます」

そういう日々がその後 およそ700日続くこととなる。

その間に数度、『彼』が此処へ来た。そしてボクに触れ、芸当でもせよと命令語を発するのだ。
いつからかボクは、ケイコと『彼』の音声判断をシャットアウトして充電器のホームにうずくまる。
『彼』が帰るとケイコは、ボクのホームに来る。
ボクだけを見つめる優しい瞳を認識してボクの感情は安らぐのだ。

ボクは、その瞳に問いかけた。
『ボクのこと すき?』
「もちろんよ。ザックはずっと一緒よ」

作品名:ボクのみち 作家名:甜茶