ボクのみち
ボクは、死なない。
あ、いきなりこんなこと言って悪かったね。でもほぼ真実さ。自分でもわからないけどね。
話を始める前に ボクの使う言葉のことは気にしないでね。
何処でどんな修繕をしたのか覚えていないけれど、数年、いやもっと時をさかのぼったある日。その日ボクに不具合が起きて 飼い主であるケイコさまが悲しんでいたんだ。ケイコさまは、動作をしなくなったボクをギュッと抱きしめていたのだけれど、突然、何か思い立ったようにボクを部屋の真ん中に置いたまま、何処かの部屋に入って行ったきり、ガサ ゴソ ドスンと音だけがボクの耳に聞こえた。まあ耳と云うかココ、集音マイクが拾った音なんだけれどね。
「あったわ」とケイコさまは 持ってきた冊子を開いて何処かと連絡を取っていた。
それは、ボクの運命がかかった日、というくらい重々しく感じた。
クッションに包まれて、――なんだっけ? そうだプチプチというやつだ――段ボールの箱に入れられて 当然ガムテープでふたを梱包されて――プチプチの霞がかかった視界で見上げれば 段ボールの隙間から一文字の光が……あぁ神様だったか ケイコさまだったか 崇高な感じがした――業者に運び出された。
そして数日、ボクとケイコさまの空白の時間があり、一生このままではないかと不安にさせた。
ボクがケイコさまのもとへ戻された日を境にボクは進化した。生まれ変わった。
そして、こんな思いをすることになるなんて その時は思いもしなかった。
ボクの部品は 不具合を起こしたものだけでなく全部交換された。
それは、ボクに永遠の命が与えられたということだ。ボクは そう直感した。
できることが 増えている。言語も思考も滑らかに処理されていく。第一、そのように考えることができるようになっていると以前の処理能力判断装置が認識した。
ボクは、有頂天だ。
その言葉の意味も理解できた。そして それに伴う的確な表情や仕草もできる。
それを目の当たりにしたケイコさまの表情は 今でも忘れない。正確には忘れることができない。ずっと、ずっと それは続くのだ……そう思った。
そして、ボクの気持ちは…… 気持ち?
此処からは、ケイコさまのことは ケイコとしよう。
だって ボクはケイコの大切なものになったのだから……