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情熱のアッパカパー要塞

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ロード・イジアは写真をテーブルにバシンという音共に叩き付けて置いた。
「我々、冒険屋は殺し屋ではありません。暗殺は受ける仕事に含まれていません」
 ロードイジアに一番近い場所に居る。ボンドネード・ファミリーのリート・ボンドネードが言った。
ロード・イジアは鷹揚に笑いながら、両手で押さえるように扇いだ。
「ハハハハ、気にしなくて良いよボンドネード殿。私は、身代金の箱に短刀を持って隠れてアッパカパーを刺し殺したいぐらいに憎んでいるのだ。君達が、口裏を合わせてくれれば、暗殺を依頼したいのだ。どうかね三倍の報酬で引き受けてくれないかね」
 酷いヤツだな。
 スカイは思った。
 辺りに呆れたような溜息が漏れていた。
「我々は殺し屋では無いのです。騎士として暗殺は出来ません。それに暗殺を依頼された場合、冒険屋組合に報告する義務が在ります」
 カーマインが直ぐさま答えて言った。カーマインの方から重苦しい雰囲気が漂ってきていた。背筋がビクッとするような重苦しさだった。
「ハハハハハ。冗談だよ。冗談。君達。聞かなかったことにしてくれ」
 ロード・イジアが強ばった顔で笑いながら言った。
 順番に写真を見ていった。
キャンディ・ボーイズのガム男が吹き出した。リッカ・グルンも口を押さえて足をバタバタさせて笑いを堪えていた。
 どうやら、相当酷い写真のようだった。
スカイの手元にもマグギャランから渡されて写真が来た。
 荒縄でグルグル巻きにされた二十代に入ったか入らないかぐらいの男が、ぶら下げられて槍で突っつかれていた。それは酷く間抜けな写真だった。
髪型が乱れていて。絶対絶命の今際の際を前にしたような、ひどい表情をしていた。
最後にコロンに渡した。
 そして写真は順繰りにロード・イジアの手元に送られていった。
ロード・イジアは写真をボンドネード・ファミリーのオヤジから受け取ると咳払いをした。
 「確かに笑いたくもなろう。バカにしたくもなろう。このような写真を見ては、そう思うのも致し方は在るまい。だが、ここに写っているのは私の息子で、次代のロード・イジア要塞の主となる一国一城を担う宿命を持って生まれた誇り高き男子の姿なのだ。このような屈辱に満ちた写真をコモン中にポスターにされて撒かれるなど、断じて許すわけには行かない。我がイジア家の名誉に賭けて!」
 ロード・イジアは最後は顔を真っ赤にして叫んだ。
「卑劣極まるアッパカパーに死を!」
ロード・イジアは叫んだ。
 「アッパカパーに死を!」
 海賊みたいな髭のオヤジも腕を振り上げて叫んだ。
「そんなこと言わないで!」
 金切り声のような叫び声が上がった。
皆、その声の主を見た。細いモヤシみたいな白髪の中年の男だった。
「私はミリシンです。ミドルン王国から派遣されている地代地主出身の官僚です。ミドルンの王立ウダル大学でエターナル魔術と政治学を学びました。ううっ…」
 ミリシンは突然青い顔をして、胃の辺りを押さえて蹲った。そして刺繍がされたコートの内側から瓶を取りだして、錠剤を首にぶら下げたペットボトルの中身で飲み干した。
なんだ、情けねえヤツだな。
 スカイは他の連中の顔を見た。
 みな、呆れたような顔をしている。
ロード・イジアは言った。
「ミリシンは胃弱なのだ。皆の者、気を悪くしないように。マッタール大臣、代わりに。説明してやれ」
海賊みたいな髭を生やしたマッタール大臣が頷いて前に出てきた。
「判ったのである陛下。私が超分かり易く説明するのである。諸君!まず一に突撃突貫!二に血戦覚悟!三に死屍累々!四に…」
 背中まで勲章を付けた勲章だらけの赤地に金モールの沢山付いた軍服のような物を着た海賊のようなオヤジが突き出た腹を揺すって前に出てきた。そして物騒な事を言い始めた。
 あのイジアの町に貼ってあった標語は、こいつが作ったんだ。
 スカイは確信した。
男の金切り声が上がった。
「待って下さい!私に説明させて!」
 ミリシンは悲鳴のような情けない声で叫んでマッタール大臣の足にしがみついた。
「ええい、離れるのである!気色悪いのである!」
 マッタール大臣はミリシンが、しがみついた足を振って叫んだ。
 スカイは何も言わず見ていた。他のパーティのメンバーも黙って見ていた。だが、ガム男と、リッカ・グルンが腹を抱えて笑い出した。特にリッカ・グルンの笑い方は、よっぽど笑いのツボにハマったのか酷かった。手足をバタバタさせて全身を震わせていた。倒れかかった椅子を背後のロボットが絶妙なバランス感覚で支えていた。
ミリシンは苦しそうな顔をして身をよじりながらスカイ達が席に着いている細長い机に手をついて右手で胃を押さえながら立ち上がった。
 「…皆さん、くれぐれも、外交問題に発展しないように気を付けて下さい。あなた方が、万が一、酷く不味い事をしでかして。戦争の開始という結果を生み出してしまっては不味いのです。ミドルン王国とイシサ聖王国は必ずしも仲の良い国同士ではないのです。過去に何度も国境線を巡って戦争を繰り返してきた歴史があるのです」
 ミリシンは息も絶え絶えに吐き出すように胃を押さえながら言った。
「アッパカパー要塞に関する詳しい地図は無いのですか?」
 リート・ボンドネードが言った。
 ロード・イジアが答えた。
 「うむ、アッパカパー要塞は、何時作られたのか判らないほどに古い要塞で。三百五十年ほど前に立てこもった山賊達がアッパカパーのクソバカヤロウの先祖だ。実に下劣な卑しい出自だ。アッパカパー要塞は岩を、くり抜いて作られた天然の要塞なのだ。勇猛果敢なる我等が歴代のイジア家の王達が攻めあぐんできた難航不落の鉄壁防御を誇る要塞なのだ。非常に攻めづらい事は間違いはない」
なるほど、そういう話だったのか。スカイは頷いていた。だが、鉄壁防御を誇る要塞にどうやって潜入しろと言うのだよ。
 「それは、我々の知っている情報です。現在のアッパカパー要塞の詳細な地図は在るのでしょうか」
 カーマインが言った。
 「無いので在る。だが諸君等は、我々が作製した、この地図を使って欲しい」
 マッタール大臣が身体を揺すりながら言った。そして手で合図をすると地図の束を持った髭面の男が腰を折り曲げたまま部屋に入ってきて歩いてきた。
 そしてスカイ達、五つのパーティに、それぞれ、地図の束が渡された。
 その一番上の地図は、余りにも大雑把に書かれた地図だった。
 ロード・イジア要塞の向かい側に位置するアッパカパー要塞の大雑把な形が描かれていた。それに加えてアッパカパー要塞の下には「半日町」という城下町が在るらしかった。
スカイは内心舌打ちをした、厄介な仕事になることは間違いなかった。だが、二枚目以降の地図になると急に精度が上がってしっかりとマッピングされていた。だが、何かのダンジョンのようだった。二枚目も同じだった。三枚目は蟻の巣のような洞窟の地図の様な物が描かれていた。
 マグギャランとコロンもスカイに顔を寄せてきて地図を見ていた。
「このダンジョンとは何なのだ」
 ソークスが言った。