情熱のアッパカパー要塞
「この大臣にして将軍であるマッタールが説明するのである。アッパカパー要塞は、何時作られたか判らない程古いダンジョンを改築して作られた要塞である。これは、歴代のイジア家の勇猛果敢なる将兵達が命がけで潜入して調べた。血で描かれたアッパカパー要塞の地下ダンジョンの地図である」
マッタールは言った。
「何故、このダンジョンと思しき迷宮の地図が我々に渡されたのですか。ロード・イジア」
ボンドネードのオヤジがロード・イジアに言った。
「噂に、よれば、アッパカパー要塞の地下迷宮には、アッパカパーの奴が非人道的な拷問や己が施政に反対する反逆者達を閉じこめる為の地下牢が在るという話らしいのだ。我が息子が捕まっている場所は、おそらく、このダンジョンの奥底で在ることは間違いない」
ロード・イジアが言った。
「この二枚目のトンネルってのは何だ?」
ローサルが言った。
ロード・イジアとマッタール大臣は顔を見合わせた。そしてロード・イジアが頷いて口を開いた。
「この、アッパカパー要塞の地下ダンジョンに向けて、我が、イジア家の先祖達は何本ものトンネルを掘って霧の谷の下を通って攻め入ろうとした。そのトンネルは今でも使えるようになっている」
ロード・イジアは言った。
「何本在るんだ」
ローサルが言った。
ロード・イジアとマッタール大臣が顔を見合わせた。そしてロード・イジアがマッタール大臣を顎で促した。
「ひい、ふう…」
しばらくの間マッタール大臣が数えていた。
「…四十一、四十二。四十二本である」
マッタール大臣が額に浮き出た汗を柄物のハンカチで拭って言った。
「だが、ここに書いてある赤いバツ印は何だ。使用不可能という事か」
ローサルは地図を叩いて言った。
マッタール大臣が太った腹を突きだして背中に腕を組んだ。
「うむ、そうである、この三百五十年の間に作られた秘密の地下トンネルは何度も、アッパカパー共に見つかり塞がれてきたのである。我々がミドルン王国とイシサ聖王国間で結ばれた国境制定条約の裏をかいて掘ったトンネルが今使えるトンネルである」
マッタール大臣が言った。
「勝手に条約を破らないで!」
ミリシンが悲鳴のような声を上げて叫んでマッタール大臣の足に飛びついて、すがりついた。
「ハハハハ、国境とは地上の上に作られる物だ。地上の下に作られるトンネルは国境の侵犯にはならないのだよミリシン」
ロード・イジアが鷹揚に笑いながら言った。
「なってます!十分なってます!ちゃんと国際法を勉強して下さい!」
ミリシンが悲鳴のような声で叫びながら胃を押さえて崩れ落ちた。
マッタール大臣がミリシンを見てからスカイ達の方を見た。
「このマッタールに策は在るのである。トンネルが発見されてイシサ聖王国から抗議が来た場合。アッパカパーの連中が作ったトンネルだと言い張れば良いのである」
マッタール大臣は真面目な顔で言った。
セコイ、セコ過ぎる。
スカイは呆れていた。
「確かに、そりゃ間違いねぇやな」
ローサルは吹き出した後、腹を抱えてゲラゲラ笑い出していた。赤いベストのガム男も笑い出した。
リッカ・グルンも隣の女に口を押さえられて腹を抱えて足をジタバタさせていた。
「おおっ、判ってくれるのかローサル殿」
ロード・イジアは言った。
「そりゃもうバッチリ。好きだぜ、そういうの」
ローサルが笑いのツボに填った顔で笑いながら言った。
「トンネルの場所を教えてください。我々には下見をする必要があります」
カーマインが言った。
「うむ、それでは付いてくるのだ」
ロード・イジアがマッタール大臣と顔を見合わせた後、席を立った。
スカイ達はロード・イジアの後を付いていった。マッタールとミリシンも付いてきた。
スカイ達は、さっきまで座っていた応接室を通り抜け、階段を登って要塞の空中庭園に出た。空中庭園には一面に青い花が咲いていた。だがスカイには何の花かは判らなかった。そして空中庭園を二百メートルぐらい歩いた所に在る尖塔に差し掛かった。土を掘るために使ったと見えるベルトコンベアが錆びたまま止まっていた。
思いっきり証拠が残っているじゃねぇかよ。
スカイは、さっきマッタール大臣が説明したアッパカパーの連中が作ったトンネルだと言い張れば良いと言うアイデアには、かなりの無理が在るように思えた。
「これ、フラクター製の掘削機でしょ。フラクターの紋章が描いてある」
リッカ・グルンが赤く錆びたベルトコンベアを見ながら言った。スカイも、よく見てみたら錆びているフラクターの紋章が付いている事に気が付いた。
「そうである、フラクター製のベルトコンベアを利用することによって、今まで、牛や馬の力で動かしていたベルトコンベアを電気という魔術で動かすことが出来るようになったのである」
マッタールが言った。
そして、スカイ達は、塔の中に入っていった。塔の真ん中には土砂を汲み上げるバケツのような物が沢山付いた機械に占められていた。
スカイ達は壁に貼り付くように据え付けられた、手すりの付いた螺旋階段を降りていった。所々に剥き出しの電球が付いていて光を放っていた。
そして、百五十メートル近く下った、その底には巨大な鋼鉄の扉が閉じていた。底はひんやりとして空気が淀んでいた。換気扇の様な機械が付いていることは付いていたが。今は止まっていた。
「これが、全てのトンネルの出発点となっている第1号坑道か」
ローサルが地図を見ながら言った。
「スカイ、どうするのだ。トンネルを通ってアッパカパー要塞に潜入をするか?」
マグギャランがスカイに言った。
だが、スカイが答える前にロード・イジアが笑顔で腕を開いて喋りだした。
「今から、君達が雪崩をうって鬨の声を上げてトンネルを走ってアッパカパー要塞に忍び込んでも構わないのだが。鍵を開けようか?」
ロード・イジアは言った。
鬨の声上げて、どうやって忍び込めって言うんだよ。スカイは思った。
「確かに、我々は下調べに来たのですからトンネルの中を見る必要があります」
カーマインが真面目な顔で言った。
「うむ、それでは、トンネルの扉を開けよう」
ロード・イジアは付いてきていた赤い軍服を着た兵隊達に手で合図をした。兵隊達は扉に掛かった閂を外した。そして、両開きの鉄の扉を開けた。
アッパカパー要塞の地下へと続くトンネルが姿を現した。
だが、暗くて中は奧の方まで明かりが届いていなかった。固い岩盤を掘ったようなトンネルの入り口付近が見えるだけだった。
「明かりは無いのですか」
リート・ボンドネードが言った。
「うむ、明かりを付けるのだ」
ロード・イジアは言った。
兵士が扉の脇にある電気のスイッチと、おぼしきレバーを下に降ろしたら明かりが付いた。
「ほう、綺麗に出来ているじゃねぇかよ」
ローサルがトンネルの中を見ながら言った。
作品名:情熱のアッパカパー要塞 作家名:針屋忠道