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情熱のアッパカパー要塞

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「ですが、既に冒険屋達と一緒にポロロン様は、出て行かれたのです!」
 マーガリナの声は絶叫へと変わっていた。



ミラーナ達とアッパカパー伯爵との会談は続いていたが、携帯電話が掛かってきて中断された。
「何!ポロロンが、小イジアと結婚するために手紙を持ってきた冒険屋達共々イジア国へ向かっただと!」
 アッパカパー伯爵が携帯電話を掛けながら叫んだ。
「なぜ、そんな突拍子も無いことをポロロンは考えたんだ!冒険屋達に騙されたのか!」
 アッパカパー伯爵は叫んでいた。
「アッパカパー伯爵、我々が連れ戻しましょうか。我々は冒険屋でもあります」
ミラーナは言った。
 ここで、アッパカパー伯爵に恩を売っておくことも悪い選択肢ではなかった。ミラーナはアッパカパー伯爵の結構人っぷりには呆れていた。アッパカパー伯爵は、他のイシサ聖王国の貴族達へのコネを作る為の通過点でしかなかったが。この通過点をしっかりと、させるためには娘のポロロン・アッパカパーを連れ戻す事は十分価値の在る事であった。



スカイ達はポロロンと共にアッパカパー峠の山道を走ったり歩いたりしたりしながら霧の橋鉄橋目指して進んでいった。行きは下りだったが、今度は、なだらかとはいえ登りの坂道であるため、スカイ達は息切れしていた。
 もう、すっかり夜になっていた。
 だが、満月が出ていて。明るい月明かりのせいで、スカイ達は、問題なくアッパカパー峠の山道を進んでいった。コロンが杖の先に小さな火を灯す懐中電灯の魔術を使う必要も無かった。
ボンドネード・ファミリーと怪物達が戦っていた場所に来た。
 額に6と書かれた女が、まだ居た。三頭の巨大なパンダと道着を着た三メートル近くの身長が在るサルと一緒に、サルの頭が付いた巨大な蜘蛛を土に埋めていた。
多分、墓のつもりなのだろう。
「あの、モンスターも、私のせいで死んでしまったのですね」
 ポロロンは言った。
そして道ばたに咲いている花を摘んで、モンスターの死骸を埋めている女と巨大なパンダ達の所へ行った。そして献花してお祈りを開始した。
「俺達、追われて居るんだよ。そんな時間ねぇよ」
 スカイ達はポロロンの後に付いていって言った。
 「そうだ、こんな事している時間が、あったら、手紙でも書いてくれ。俺達は小イジアの所から、お前宛の手紙を持っていって、お前から返事の手紙を貰ってくれば仕事は完了なんだ」
 マグギャランは言った。
 「いえ、手紙などでは駄目です。私が、イジア国へ行って、アッパカパー伯爵家とイジア国の反目の歴史を変えるのです」
 ポロロンは言った。
「だから、手紙だけ書いてくれれば良いんだよ」
 スカイは言った。
「死んだ、サルスパイダーの為に、花をくれて、お祈りした。お前、良い人だ」
 額に6と書かれた女が、やって来てポロロンに言った。
「私のせいで死んでしまった命です。私が弔う事は人としての礼儀です」
 ポロロンは言った。
 「私はクローン人間ニーナ6号。手伝って欲しいことがあったら言え」
 ニーナ6号はポロロンに言った。
 「せっかくですが手伝って貰う事は在りません。私達は道を急いでいます」
 ポロロンは言った。
 「それなら、お前達、私のメガトン・パンダに乗っていけ」
 ニーナ6号はニコッと白い歯を見せて笑って言った。
 スカイ達は顔を見合わせた。
スカイ達はニーナ6号が操るメガトン・パンダの背中に乗って、アッパカパー峠の道を走っていった。
ニーナ6号と道着を着た猿が先頭のパンダに乗って、二頭目にコロンとポロロンが乗っかって、三頭目にスカイとマグギャランが乗っかっていた。
馬の蹄の音がした。
 馬に乗った。カーマイン団の連中がメガトン・パンダに乗ったスカイ達に追いついた。
 「止まれ。我々は、アッパカパー伯爵から依頼を受けた」
 カーマインが言った。
 「くそっ!スカイ。馬じゃ、直ぐに追いつかれるのも当然だぞ」
マグギャランが後ろを向いて言った。
 「やはりパンダより馬の方が足が速いよな」
 スカイも後ろを向いて五つの騎馬を見ながら言った。
 ニーナ6号はパンダ達を止めた。
 「仕方がない。だが、カーマイン女卿。アッパカパー伯爵から依頼を受けたとはどういう事だ」
 マグギャランがメガトン・パンダから降りて、馬を止めたカーマインに向かって言った。
 「聞いての通りだ。我々カーマイン団はアッパカパー伯爵から娘のポロロン・アッパカパーを連れて帰るように冒険屋として仕事の依頼を受けた」
カーマインは言った。
「変な事になっちまったな。ミドルンの冒険屋同士で、争うことも無いだろう」
 スカイはカーマイン団に言った。鎧で完全武装しているカーマイン団と戦うのは少々不味そうな気が勘でしていた。
「我々は、冒険屋としてではなく、カーマイン家の都合でアッパカパー伯爵に助力するのだ。これは競合ルールでは無い。刃傷沙汰も仕方が在るまい」
カーマインは冷たい声で言った。
 物凄く冷血な女に見えた。最初から人形のような硬質の美しい顔をしているが、その冷たさは性格が滲み出ている物の様だった。
「私は、絶対、アッパカパー要塞に戻りません。私は、アッパカパー伯爵家とイジア国の間に続く三百五十年来の悲しい争いの歴史に終止符を打つのです」
 ポロロンは前に出て、カーマインに向かって、よく通る声で言った。
「何を考えている。ポロロン・アッパカパー」
 カーマインは言った。
 「私は、歴史を変えるのです」
 ポロロンは言った。
「個人の意志で歴史は変わる物ではない。権力が歴史を変えるのだ」
カーマインは言った。
 「いえ、私は個人の意志で歴史を変えて見せます」
 ポロロンは言った。
「お前は、アッパカパー伯爵家の娘という権力を無くせば、ただの無力な小娘でしかない。お前一人で何が出来ると言うのだ」
 カーマインは言った。
 「個人の想いが歴史を作るのです。悪い想いは悪い歴史を、良い想いは良い歴史を作るはずです。私は良い想いで良い歴史を作ります」
 ポロロンは言った。
 スカイには、あまりにも理想論に思えた。
 大体、小イジアは、ポロロンの容姿が好きなだけであって、歴史やイジア国とアッパカパー伯爵家の対立とかには興味は全然無いからだ。こんな事になるなら、何が何でも小イジアへの手紙を先に書かせれば良かった。
「話しにならんな。ラーン。ポロロン・アッパカパーを捕まえろ」
カーマインが言った。
「承知しました姫様」
 ラーンと呼ばれた黒い髪を短く切った女が言った。
「どうするかスカイ」
 マグギャランが言った。
 「しょうがねぇな。ポロロンの手紙は、まだ書いて貰っていない。戦うかよ」
 スカイは剣を抜いた。
 「うむ、全面対決となるのは避けられないのか。だが、俺は、心情的には、カーマイン女卿と戦うのは嫌なのだ。二重人格で悪女とカマトトの間を行き来するルシルスとは違う正統派の絶世美女だからな。俺は変化球よりも、やはり直球で勝負されると痛いのだ」
 マグギャランも剣を抜いた。
「…頑張る」