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情熱のアッパカパー要塞

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 「小イジアは、明るい未来を作ろうと私に呼びかけているのです。それに応えなければ駄目です」
 ポロロンは言った。
 「違うよ、小イジアの奴は、お前に気があるだけなんだよ」
 スカイは言った。
「判っています。小イジアは、我が、アッパカパー伯爵家とイジア国の間に続いた積年の戦いの歴史に終止符をうち、明るい相互発展の未来を築こうという気があるのですね」
 ポロロンは真面目な顔で言った。
「いや、そんな立派な物じゃねぇんだよ」
スカイは言った。
 「ああ、そうだ。もっとドロドロの下心に満ちた物であることは間違いは無い」
マグギャランもトレーダー語で言った。
「もっと、ちゃんとした、心に満ちた物なのですね。判りました」
 ポロロンは言った。
「心に満ちた物なんかじゃねぇよ。ちゃんと話しを聞けよ。手紙さえ書いてくれればいいんだよ」
 スカイは言った。
 マグギャランのトレーダー語は訛は無い流暢な物だが、ポロロンは聞き違えていた。
「決めました。私は小イジアとの結婚を今、決意します」
 ポロロンは爽やかな顔で言った。
はあ?
 「結婚する?」
スカイとマグギャランとコロンは異口同音に同じ言葉を言った。
 何処が、どう繋がると、そのような結論が出るのかスカイには判らなかった。
 「それは考え直した方が良いぞポロロン・アッパカパー。いきなり結婚は無いと思うぞ。まずは文通を開始するプラトニックな関係から始めるのだ」
 マグギャランも、あまりにも突拍子もない事を聞いて変な声でポロロンに言った。
 「いいえ、私の決意は変わりません。小イジアと結婚します」
 ポロロンは言った。
「おい、返事の手紙を書いてくれるだけで良いんだよ。何も結婚なんかしなくたって全然構わないんだよ」
 スカイは言った。
「…そう」
 コロンもカクカクと首を、ぎこちなく動かして頷きながら言った。
 「いいえ。決めました。私は、これからイジア国へ嫁入りするために向かいます」
 ポロロンは頑としていた。
 「まずいぞスカイ」
 マグギャランがスカイの方へ顔を寄せてきて小声で言った。
 「ああ、確かに無茶苦茶まずいぞ」
 スカイも内心どうした物かと思いながらマグギャランに小声で言った。
 「…こんな筈では無かったのに」
 コロンも顔を寄せてきて言った。
「さあ、冒険屋の皆さん。イジア国へ道案内をするのです」
 ポロロンは言った。
 「止めて下さい!ポロロン様!」
 マーガリナが悲鳴のような叫び声を上げた。
 「そうです止めて下さい!イジア国は絶望と頸木の王の家臣だったんですよ!」
プリムが叫んだ。
「おう、そうだ。そこのプリムも携帯電話を持っているだろう。それを俺達に預けさせてくれ」
 スカイは言った。これは用心の為だった。
ポロロンを連れてアッパカパー要塞から脱出するためには、なるべく気取られない方が安全に決まっている。その為には、簡単に連絡が付く携帯電話を、この二人のメイド達に持たせておかない方が良いに決まっている。
「プリムの携帯電話ですか?」
 ポロロンは言った。
 「そうだよ。ちゃんと、カエルの携帯電話も、後で返すからプリムが持っている携帯電話を俺達に預けさせてくれ」
 スカイは言った。
「プリム。ポロロン・アッパカパーの命令です。携帯電話を、この冒険屋達に渡しなさい」
ポロロンは言った。
「ですが。ポロロン様」
 プリムは言った。
 「これはポロロン・アッパカパーの命令なのですプリム。携帯電話を、この冒険屋達に預けるのです」
 ポロロンは重ねて言った。
 「判りましたポロロン様」
 プリムは悄然とした声で言うと。スカートのポケットから猫の顔が付いた携帯電話を取りだした。そしてスカイに手渡した。
「出来れば、この部屋に、この二人のメイドを閉じこめておいた方が良いだろうな。アッパカパー要塞の他の所へ連絡が付くと不味いだろう。鍵は無いのかポロロン」
 マグギャランは言った。スカイと同じ事を考えていたようだった。
「ええ、在ります」
 ポロロンは、机に歩いていって引き出しを開けて鍵束を取りだした。そして戻ってきた。
 「マーガリナ。プリム。良く、今まで、このポロロン・アッパカパーに仕えてくれました。感謝します。これより、私は、ロード・イジア要塞へ嫁入りします。今生の別れとなりますがよしなに。最後に閉じこめる事になりますが連絡が付かなければ今日中にマヌエッタ達が気が付いて助けてくれる筈です。最後まで迷惑をかけてすみませんでした」
 ポロロンは、そう言うとマーガリナとプリムに向かって頭を下げた。
 「ポロロン様、頭を下げないで下さい!」 マーガリナは叫んだ。
 「そうです、ポロロン様!私達は、ただのメイドです!」
 プリムも叫んだ。
「今の私は、アッパカパー伯爵家から出て、イジア国に嫁入りする身です。もう、主従関係では無いのです。対等の人と人です」
 ポロロンは言った。
「ポロロン様止めて下さい!」
 マーガリナが叫んだ。
 「そうですポロロン様止めて下さい!」
 プリムも叫んだ。
「それでは行くか」
 マグギャランがポロロンから目を逸らしながら言った。スカイも、チラッとポロロンを見て視線を逸らした。コロンも、ぶかぶかのヘルメットを帽子の上から被った頭を抱えて振っていた。
そして、スカイ達はポロロンと一緒に、マーガリナとプリムを後に残して部屋に鍵を掛けて出ていった。
 イジア国に通じる地下ダンジョンへ続くトンネルを通ろうとしたら工事中で人が集まってた。ポロロンを連れたままトンネルを通る為の言い訳に苦慮したスカイ達は、半日町経由でアッパカパー峠に向かって進んで霧の橋鉄橋を通っていく事にした。兵士の変装をしたスカイ達とポロロンはアッパカパー要塞の壊れた正門から出た。台車に、くくりつけている、壊れた虐殺王と暴虐王の横で、指示を出しているニワデルとスローターと視線を合わせずに出ていった。
半日町の城門は壊れていたが無事に通り抜けた。そしてアッパカパー峠に向かう道で変装を解いたスカイ達はマーガリナとプリムの携帯電話を分かり易い位置にヘルメットや、槍と一緒に置いてアッパカパー峠の山道を登っていった。

 

マーガリナは部屋の中を歩き回っていた。
 プリムは黙って椅子に座っていた。
 呼び鈴が鳴らされて扉が開いた。
 マヌエッタ様が背後の他の五人のメイドと一緒に怖い顔をしていた。
「マーガリナ、プリム。どうしたのですか。何故、連絡が付かないのですか。鍵が外から掛かっている。携帯電話の電源は、いつもオンにしておくように言ってあるはずです」
マヌエッタ様の説教が早速始まった。
 「大変ですマヌエッタ様!ポロロン様が、小イジアと結婚すると決めてしまいました!」
プリムは、混乱した頭で、混乱した内容の事を喋った。大体、大筋で意味は通じるはずだが。プリムは本当に気が動転していたから。自分が何を喋っているのか自信が無かった。
 「何ですかプリム!何があっても止めなさい!」
 マヌエッタ様は叫んだ。