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情熱のアッパカパー要塞

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 「ああっ、なんて端整で凛として居るんだ!サイコー!僕のイメージしていた通りだよ!」
 小イジアが叫んだ。
 「本当に金は、あるのかよ」
 スカイが言った。
これは重要だった。
「失礼な。僕はビビリュウム取引で儲けているロード・イジアの息子だよ。ちゃんと、君達を雇う金ぐらい小遣いで持っているよ」
 そう言うと小イジアはタンスの引き出しを開けてフラクター帝国銀行の預金通帳を取りだした。そしてスカイ達に見せた。
 スカイ達3人は顔を寄せて通帳を見た。
 今週分の振り込みがフラクター選帝国魔術師領から一千五百ネッカー(一億五千万円)と残高が二十万ネッカー(二百億円)と書いてあった。
おおっ。とスカイ達は感嘆した。
こいつはカネを持っている。
スカイの脳裏にカネの文字がフラッシュバックしてスパークしてリフレインした。
 カネ!
 カネ!
 カネ!
 「よし!仕事を引き受けた。成功報酬二百五十ネッカー(二千五百万円)でどうだ」
 スカイは小イジアに握手しながら肩を叩いて言った。
 「こら、スカイ、金に目が眩むな。アッパカパー要塞に、また突入するつもりか。今日は、お前のデタラメな作戦のせいで延々とアッパカパー要塞の中を走り回っていたのだぞ。俺は、あまり乗り気では無いのだ」
マグギャランは、やる気が無さそうな声で言った。
「…止めた方がいい」
 コロンも、やる気の無さそうな声で言った。
「金が入ったらテレビを百三インチに買い換えられるぞ」
 どうしても仕事を引き受けたいスカイはマグギャランに言った。
 「なぬ。ぬぬぬぬぬぬぬぬ!俺がケーブル・テレビを気持ちよく見るためには百三インチのテレビが必要だ!ええい!俺も参加するぞ」
 マグギャランは言った。
 「…でも。止めた方が良いと思う」
 コロンが言った。
 「コロン。金が手にはいると、お前が騙されて借金込みで買ったボロ屋敷のリフォーム出来る部屋の数が増えるのだぞ」
 マグギャランがコロンにスカイと同じ様な事を言った。
 「…もう少し今日は頑張ってみるかも」
 コロンは顔を赤くして首を傾げて言った。
「よし、我々は意見が一致した」
 マグギャランが拳骨を出した。
「損失補填をする」
 スカイが、その上に拳骨を置いた。
 「…頑張る」
 コロンも杖を持った手を載せた。
よし、問題ねぇ。俺達の心は一つになった。
「それじゃ、話は纏まった様だね。どうやって、冒険屋組合に仕事を依頼するんだい」
小イジアが言った。
 「まずは、ミドルン王国クリムゾン大公国ニーコ街の冒険屋組合に仕事の依頼を出すんだ」
 マグギャランが言った。
 「携帯電話で良いのかい」
 小イジアが机の上に並んだ幾つも携帯電話から緑の携帯電話を充電スタンドから取りだした。
 「その通りだ。そして、仕事の依頼をするパーティをW&M事務所と指名するのだ」
マグギャランが言った。
 「アッパカパー伯爵はポロロン・アッパカパーに会わせてくれなかったから。僕は、もう。側に居るのに会えないもどかしさで、頭が爆発しそうだったのさ。その熱い思いを今手紙に書き込むから、ちょっと待っていてね。今から先に書くから」
 そして小イジアは手紙を書いて、卓上ライターの火で軟らかくした蝋で封筒に封をし、指輪で刻印を押しつけた。



「なるほど、ミドルン王国では、地代地主出身の官僚達が議会を作ろうとしているのか」
アッパカパー伯爵は言った。
 「ええ、そうです」
 ミラーナは言った。アッパカパー伯爵がロード・イジアより話の通りが良くて好感触を掴んでいた。
「イシサ聖王国でも、議会を作ろうとする動きはある。だが、それは自由都市の自治権の獲得という形であって、ミドルンとは事情が違うようだ」
 アッパカパー伯爵は言った。
 「ですが、いずれ、都市も自治権を獲得していく過程で、独立の権利を目指して行くはずです」
 ナバーガーが言った。
「成る程。だが、それは、必然的な成り行きなのではないのか。領民が望むのなら、自治権を与え独立させることも悪いことでは無いと私は思う」
 アッパカパー伯爵は言った。
「アッパカパー伯爵。あなたは、領民の肩を持ちすぎです。我々貴族は、支配者なのです。自治権を与えれば、我々のカーマイン大公国の様に議会が作られ、実権を鋸卿のような独裁者に奪われてしまいます。残虐な独裁者に政治の権力を奪われてしまっては、あなたが肩を持つ領民達を逆に苦しめる事になってしまうのです」
 ナバーガーが言った。
 「だが、アッパカパー伯爵家は常に、領民の味方であるようにとの家訓が在るのだ」
 アッパカパー伯爵は言った。
こんな甘い考えで、よく、今まで、伯爵領を統治してきた物だとミラーナは呆れていた。
 「ですが、統治者は厳しく社会を律する事に価値があるのです。領民は風に吹かれる葦と同じです。そして領主は風です」
 ナバーガーが言った。
「アッパカパー伯爵家では、領民によって領主は支えられているという家訓が在るのだ葦を倒すような暴風、つまり暴君にはなってはならないのだ」
アッパカパー伯爵は言った。
 ミラーナはイライラしてきた。
 アッパカパー伯爵は領民を甘やかしているとミラーナは感じた。
 「そのような考えでは、あなたは先祖代々受け継いできた、領地を失う事になります」
ジェラールが重い口を開いていった。
その言葉はミラーナの考えを寸分違わず言い表していた。
 「領地を失う?我がアッパカパー伯爵家は領民と良い関係を築いている」
 アッパカパー伯爵は怪訝そうな声で言いながら隣のベシアと呼ばれた家令を見た。家令のベシアは頷いた。
 「その通りです。アッパカパー伯爵家は、領民に支えられているのです。領民あってのアッパカパー伯爵家です」
 家令のベシアが言った。
 「それでは、その領民達が反乱を起こして、あなた方から権力と領土を奪ったらどうするのか」
 ミラーナは言った。
偽善者の言葉も聞き飽きてきた。
「そのような事は起こらないと思うが、もし反乱が起きるとしたら。それは、我々の責任だ。領民達を、そこまで追い込むような悪政を行った事に対する当然の報いではないのか」
 アッパカパー伯爵は言った。
 ミラーナは呆れた。ジェラールとナバーガーと顔を見合わせた。二人とも困惑している表情をしていた。
 こんな、お人良しの伯爵では鋸卿包囲網にどれだけ使えるか問題があったが。だが、今は、このアッパカパー伯爵を使って、イシサ聖王国内に人脈を作っていく必要があった。


 
スカイ達は、ロード・イジア要塞の縦穴の中を歩いていって、最深部の第1号坑道の前にいた。
「さっき、逃げてくるときに使った道だ」
 スカイは言った。
 「ああ、そうだ。だが、俺達冒険屋のパーティ達は、みんな、逃げたとアッパカパー要塞の連中達は考えているだろう。だから。今は仕掛けるチャンスだ」
 マグギャランは言った。
 「俺達は、この小イジアのラブレターをポロロン・アッパカパーに渡して、返事を貰って帰ってくる」