情熱のアッパカパー要塞
リート・ボンドネードは言った。
「俺は、灼熱の翼の騎士、マウド・ベルターだ。騎士の名誉に掛けて誓う。小イジアの身柄はキャンディ・ボーイズが屍から受け取った事を証明する」
マウド・ベルターは言った。スカイは、ようやく、この印象の薄い騎士の名前を覚えた。
「そうよ。灼熱の翼のメンバーは全部覚えて居るんだからね。ペロピンが記憶しているから。ラップトップに映像を映し出せるもん」
リッカ・グルンが言った。
「それでは、リート・ボンドネード君。ここまで、証言者達が出てきてしまった。一度、報酬を返して貰えないかね」
ロード・イジアは言った。
「断る。キャンディ・ボーイズと灼熱の翼は結託して報酬を分配しようとしている。私は不愉快で気分が悪い。ここで切らせて貰う。何か不満が在るのならば、冒険屋組合に訴えるように」
リート・ボンドネードは言った。そしてブツンと音を立てて電話は切れた。
「何だ。ボンドネードの奴等は狡っ辛いな」
スカイは言った。
「アレが、ミドルンの王都ウダルで「裏切りのリート・ボンドネード」と呼ばれている奴の仕事の、やり口かよ。噂より汚ぇ奴だ」
ローサルが言った。
「ほら、見てよ。ペロピンが覚えている」
リッカが、背中に背負ったラップトップを降ろして、三次元モニターにソークスと屍の死闘の映像を映し出した。そして、その後のやり取りもスカイ達は見て聞いた。そして、ソークスが右腕と右足を失った後、ボンドネード・ファミリーが、小イジアを透明にして連れ出そうとしてムササビと大男が小イジアの身柄を取り返すところも見た。
「これだけの証拠を見せられては、小イジア様を連れ帰ったのがキャンディ・ボーイズで在ることは間違い無いのである」
マッタール大臣が言った。
「そうだな。我々も、ここまでのハッキリとした証拠を見せられては、キャンディ・ボーイズが競合ルールで成功した事を疑う必要は無い。ローサル君。君達キャンディ・ボーイズが、我が息子を奪還した。改めて感謝をしよう」
ロード・イジアは言った。
「それでは。今すぐ銀行の口座に、成功報酬を振り込んでくれ」
ローサルが言った。
「財務長官フリッヒ。それではキャンディ・ボーイズの口座に成功報酬を振り込むのだ」
ロード・イジアは命令した。
財務長官らしい男が携帯電話を掛け始めた。
その時、変な声が上がった。
「ははぁん。僕が、小イジアだよ。冒険屋の君達に頼みが在るんだ」
小イジアは言った。
「何だよ。お前は。変な声出して」
スカイは言った。
「コラ、スカイ。もう少し口の効き方に注意しろ。小イジアはロード・イジアの息子だ。一応王子なんだぞ」
マグギャランが言った。
「仕事の依頼だよ」
小イジアはスカイの言うことを無視して話し始めた。
「息子よ、仕事は、もう終わったはずだぞ」
ロード・イジアが言った。
「ノー、ノー。在るんだな重要な奴が。実は、愛しのマイハニーのポロロン・アッパカパーに僕の愛が沢山詰まったラブレターを届けて欲しいんだ」
小イジアは言った。
「はあ?」
スカイは、思わず聞き返した。
「そして出来れば、ポロロン・アッパカパーの生写真を、カメラで取ってきて欲しいんだよ」
小イジアは言った。
「馬鹿者!アッパカパーのクソバカヤロウの娘に求婚するなど断じて許さんぞう!」
ロード・イジアが大声を出した。そして席を立って真っ赤な顔で突進してきて小イジアを鉄拳で殴り飛ばした。
小イジアは殴られて倒れた。
「だろうね、父さんが、そう反対すると思ったから僕は何も言わずに、アッパカパー要塞に向かって求婚しに行ったんだ」
頬を押さえた小イジアが口の端から血を流しながら言った。
おおおっ、というどよめきが、「統合幕僚作戦参謀本部極秘会議場」に広がった。
「この母が、このような愚かな息子を産んでしまうとは、一生の不覚です。母が、良縁の見合いの支度をしているというのに。お前は、少しも応じようとはしないでは無いですか」
眉毛を剃った筋骨逞しい中年の女が涙をハンカチで拭いながら言った。
「母さんは、いつも、ゴリラみたいな筋肉女ばかり、見合いに用意するじゃないか。肘まで在る手袋の前腕筋がボディ・ビルダーみたいに膨れ上がった女に、どうやって興味を持てと言うんだよ」
小イジアは言った。
「国民皆兵、猪突猛進こそがイジア国の国民性である。小イジア様も次代のロード・イジアとしての本分を、わきまえてもらいたいものである。見てくれよりイジア国の強き子種を残す、強く逞しい筋骨隆々の女性を娶るべきである」
マッタール大臣が言った。
「はっ、やだね。僕は、次代のロード・イジアで在るんだ。僕にルールを決める権利が在るんだよマッタール」
小イジアは言った。
「馬鹿者ぉ!今のロード・イジアは、この私だぞ!このバカ息子!バカ息子!」
ロード・イジアは馬乗りになって小イジアの顔面を殴りはじめた。
「聞いているか!このバカ息子!」
ロード・イジアは、鼻と唇の端から血を流してぐったりとした小イジアの胸ぐらを掴んで揺すっていた。
だが小イジアは白目を剥いて、揺すぶられていた。
「いやあ、気絶しているよ」
スカイは言った。
「確かに気絶もするよな、あれだけ殴れば」
マグギャランは言った。
「こんな事のためにソークスは右腕と右足を失ったの」
リッカ・グルンが落ち込んだ顔で言った。
「一つの修羅場では在るな」
マグギャランは言った。
「こんな事の為じゃない、ソークスは騎士として果たし合いの中で右腕と右足を失ったんだ」
マウドは言った。
「俺達は冒険屋だぜ。これは、これで仕方がねぇさ。仕事の結果が、どうなろうと、俺達冒険屋には関係が無いって事だ」
スカイは言った。
「えーっ。でも、ソークスが可哀想だよ」
リッカ・グルンは言った。
「俺達は、仕事を受けないぜ。俺達はホームのウダルへ戻る。俺達のパーティの格付けが下がるような馬鹿らしい依頼を受けられるかよ。おい財務長官のフリッヒと言ったな。俺の銀行口座に仕事の成功報酬を振り込んだか?」
ローサルは言った。
「ええ、終わりました。確認をして下さい」
財務長官フリッヒが言った。
ローサルは黒地に稲妻がスパークしている携帯電話を取りだした。
「おれ達、灼熱の翼も仕事は受けない。これから右腕と右足を失ったソークスを故郷のバンド男爵領へ連れていく。悲しい仕事だ」
マウド・ベルターが言った。
「ソークスさんが、倒れた時、応急処置を手伝っていただき感謝します」
ルエラ・ジパーズが前に出てきて。キャンディ・ボーイズの眼鏡を掛けた男に頭を下げて言った。
「俺からも、感謝する。名前を聞いていなかった」
マウド・ベルターも前に出てきて頭を下げた。
「ええ、医者として当然ですから。それに、あなたは、ソフーズとシャールの大怪我を治療する手伝いをしてくれました。感謝するのは、こちらの方です。私の名前はターイ・ラッスルです」
作品名:情熱のアッパカパー要塞 作家名:針屋忠道