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情熱のアッパカパー要塞

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 リート・ボンドネードは携帯電話を取りだした。



「何!ボンドネード・ファミリーが、我が息子の奪還に成功しただと!」
 ロード・イジアが「統合幕僚作戦参謀本部極秘会議場」の上座で緑色の携帯電話に向かって叫んだ。
 「おおっ!」
 マッタール大臣が叫んだ。
 そして「統合幕僚作戦参謀本部極秘会議場」のテープルの全席に座ったイジア国の首脳達も一斉に歓声を上げて拍手を始めた。
 ミリシンは内心ハラハラしていた。
 あの五つの冒険屋のパーティ達が、アッパカパー伯爵領の中で何をしたのかが問題だった。外交問題にならなければ良いのだが。
「うむ、今すぐ、我が息子の声を聞かせてくれ」
ロード・イジアは涙と鼻水を口髭に垂らしながら言った。そして携帯電話のボリュームを上げた。
 「父さん。僕だよ。アッパカパーに捕まっていたけれど。今、ボンドネード・ファミリーによって救出されたんだ」
 それはミリシンも知っている小イジアの声だった。紛れもなく、ボンドネード・ファミリーは困難な仕事を成し遂げたのだ。これが冒険屋だというのか。
 「おおおっ我が息子よ!アッパカパー要塞で、酷い目に遭わされたのであろう!」
 「そうだよ父さん、アッパカパー伯爵は、イジア国の跡継ぎで在る僕を、ことさらに毛嫌いして、拷問をしていたんだ」
 小イジアは言った。
 「そうであろう。そうであろう。なんと卑劣なアッパカパーめ!」
 ロード・イジアは嗚咽と共に言った。
「それではロード・イジア。仕事の成功報酬を今すぐ支払って下さい」
 リート・ボンドネードは言った。
 「うむ、それでは、財務長官フリッヒ。ボンドネード・ファミリーの銀行口座に仕事の成功報酬を入金するのだ」
 ロード・イジアはイジア国の財務長官フリッヒに命令した。フリッヒは携帯電話を取りだした。
 だが、他の冒険屋は、どうなっているのか?ミリシンは気が気ではなかった。万が一にも捕まってしまってミドルン王国の外交にとって不利益が生じるような結果となっては困ってしまう。ミリシンの胃が再び痛み始めた。



「仕事の成功報酬を騙し取るとはね兄さん」
 コーネリーが言った。
 「ロード・イジアが、私の銀行口座に入金した時点で、この競合ルールの仕事は、ボンドネード・ファミリーの勝ちとなった」
 リート・ボンドネードはボンドネード屋敷の執事ライアから入ったロード・イジアの入金を確認して言った。
 「キャンディ・ボーイズが、冒険屋組合に抗議してくるわよ」
 コーネリーが言った。
 「構わない。冒険屋組合副組合長で実質的なトップのルーサーが揉み消す」
 リート・ボンドネードは言った。
「ルーサー兄さんも、嫌がるわよ」
コーネリーは言った。
「ボンドネードの名誉のためだ。ルーサーも嫌がることは無いだろう。キャンディ・ボーイズは最近頭角を現している若手だ。早めに潰した方が良い。ポンドネード一族の評判に関わる商売敵だ」
 リート・ボンドネードは言った。
 小イジアには、ボンドネード・ファミリーが目の前に近づいたときにスリープ・ミストの呪文を掛けている。よって、小イジアの証言もボンドネード・ファミリー優位に進むはずだ。これが九十八パーセントの仕事の達成率を誇るリート・ボンドネードの仕事のやり方だった。



スカイ達は、リッカの指示に従って、大分走っていた。ようやく、リッカが携帯を掛けている所まで辿り着いた。鎧を着た兵士達を捲くことができ、スカイ達は階段の下の広間に集まっている兵士達を見ていた。スカイは素早く数えて百三十人近くも集まっている事が判った。広間の中央には、壊れた両開きの扉があり、その入り口の所で灼熱の翼の印象が薄い騎士とスカウトっぽい男が兵士達と剣を交えている。
 「どうやら、ここか。鎧を着た完全武装の兵士達が集まっているな」
マグギャランが階段の下を見ながら小声で言った。スカイ達が居る階段の上から、見る限り、下の広間は合計五つの階段で繋がっているようだった。
「だが、どうやって救出をするんだ。部屋の中に居るんだろうが、外には百三十人近くも兵士達が集まっているだろう」
スカイは携帯電話に言った。
「そうよ。マウドとルージェイも連続して戦っていて、途中でルエラとペロピンが交代して戦ったけど。やっぱり、ドンドンとアッパカパー伯爵の鎧を着た兵士達が集まってきて追い込まれて居るのよ」
リッカが携帯電話から言った。
 その時、スカイは背後で鎧が立てる金属音を聞いた。スカイは背後を振り向いた。
 「お前達は何者だ!」
 イシサ語で全身鎧を着た兵士達十人ぐらいから誰何された。スカイ達は階段の上から五個めの踊り場に居るから階段上の方にいる兵士達とはまだ五十メートル以上の距離があった。
 「不味いぞスカイ!前と後ろから挟まれた!」
 マグギャランが前と後ろをキョロキョロ見ながら叫んだ。
 「コロン!火球を作れ!」
 スカイは叫んだ。そして階段を下に向かって駆けだした。
「どうするつもりだスカイ!」
 マグギャランが躊躇した顔で叫んだ。
 「火球を前に出して下の広間へ突進していく!」
スカイが叫んだ。
コロンが火球を作ってスカイの前に持ってきた。そして更に火球を三つに分裂させた。 「バカ者!もう少し、ましな事を考えろ!」
マグギャランが走って階段を駆け下りながら叫んだ。コロンの火球がスカイとマグギャランとコロン自身の回りをグルグルと回り始めた。
 「行くぞ!」
スカイは剣を抜いた。
「バカ者!ええい覚悟を決めた!突撃だ!」
マグギャランも剣を抜いた。
スカイ達3人は、マグギャランを先頭にコロンを間に挟んで、スカイが、しんがりのまま階段を駆け下りて、百三十人近く居る兵士達目がけて突進していった。
 「どけ!どけ!どけ!火球が爆発するぞ!」
 スカイは声を張り上げて剣をデタラメに振り回してイシサ語で叫んだ。
「触れると弾ける危険な爆裂火球だ!」
 マグギャランも負けじとトレーダー語で声を張り上げた。
百三十人近くも居る兵士達は、慌てて、スカイ達3人が走って近づいてくるのを避け始めた。
 「どけ!どけ!どけ!どけ!」
 スカイは剣をデタラメに振り回して突進しながら叫んだ。
 「爆発!爆発!爆発!爆発!」
 マグギャランも剣を振り回して先頭で走りながら叫んだ。
 コロンの火球はスカイ達3人の回りをそれぞれグルグルと高速で回っていた。
 「どけ!どけ!どけ!どけ!」
 「爆発!爆発!爆発!爆発!」 
 そしてスカイは半分後ろを向いて走りながら時折突き出される槍やら斧槍などを切り払って、灼熱の翼が立てこもっている部屋の入り口へと向かっていった。
 「どけ!どけ!どけ!どけ!」
 「爆発!爆発!爆発!爆発!」
灼熱の翼の印象の薄い騎士と、スカウトっぽい男がスカイ達が突進して来ると、部屋の入口の左右に避けて道を作った。
「どけ!どけ!どけ!どけ!」
 「爆発!爆発!爆発!爆発!」
 スカイ達は駆けた勢いが付いたまま部屋の中に突進していった。