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情熱のアッパカパー要塞

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 スカイ・ザ・ワイドーハートは言った。
「見て下さい、この男の首に、ぶら下がっている。プラチナ・プレートを。コモン共通の騎士試験の合格者の証ですぞ」
 ドウンがマグギャランの首から細い鎖でぶら下げられたプラチナ・プレートを見て言った。
 「お前は騎士なのに、未成年者を使って、こんな、どんな、ならず者でも思いつかない馬鹿げた事をやったのか。ロボットで町の中を走り回って、町の建物を破壊してスローター博士の、もう1つのロボットと格闘をやって破壊して、マンモタイガーを倒したと言うのか」
アッパカパー伯爵は言った。
「申し開きはしません、全部、おっしゃる通りです」
マグギャランは神妙な顔で言った。
「お前達が壊した城門が幾らするのか判っているのか。全てはアッパカパー領の過去から今に至る、領民達の血税で賄われているのだぞ」
アッパカパー伯爵は言った。
「ごもっともです」
 マグギャランは言った。
「お前は騎士失格だ。主君に仕えぬ自由騎士(フリーランサー)だろうが、お前は騎士道にもとる事をやっているのだ」
アッパカパー伯爵は言った。
 「おっしゃる通りです。私も、こうなった以上、もはや弁解はしません」
 マグギャランは神妙な顔で言った。
「いやあ、コイツだって、上品な綺麗事だけじゃメシ食えないから冒険屋を、やっているんだよ。冒険屋は金回りは良いときは良いからな。冒険屋景気が良くて仕事が楽な時は十分満足できる収入が簡単に手に入る、いい職業なんだよ」
スカイ・ザ・ワイドハートは言った。
 「それはミドルン王国の政治が悪いのだ。我がアッパカパー伯爵領では、流民を受け入れて開拓を行っている、エターナルで開発された新しい農耕法を取り入れることによって養える人口を増やし続けているのだ」
 ベシアが言った。
「でも全部の貧乏人は助けてねぇじゃん。自己満足だよ。それ」
 スカイ・ザ・ワイドハートが言った。
 「アッパカパー伯爵様に何という口を利くんだ!」
ドウンが顔を真っ赤にして怒りだした。
そしてドウンがスカイ・ザ・ワイドハートの横っ面を張った。
「イテェな。殴るなよ」
スカイ・ザ・ワイドハートは言った。
「アッパカパー伯爵様は立派な領主だ!このバカ者め!」
 ドウンはスカイ・ザ・ワイドハートに言った。
「ところでさ、何で、ロード・イジアの息子の小イジアは捕まったんだよ」
スカイ・ザ・ワイドハートは言った。
 「ミドルンの内通者も事情を知らないみたいですし、やはり、小イジア個人の問題では無いでしょうか」
 ベシアが小声でアッパカパー伯爵に囁いた。
 だが、アッパカパー伯爵の怒りは臨界点を超えて、爆発した。
 「小イジアは我が、アッパカパー伯爵家を愚弄したのだ!」
 アッパカパー伯爵は叫んだ。
 「イマイチ意味が通じねぇんだけど」
 目つきの悪い少年、スカイ・ザ・ワイドハートは怪訝な顔で言った。
「小イジアは、我が愛娘ポロロンに恥知らずにも求婚しに来たのだ!」
 アッパカパー伯爵は怒りと共に叫んだ。
「はあ?それじゃ、俺達は痴情のもつれかなんかで仕事やってんのか」
 スカイ・ザ・ワイドハートは言った。
「スカイ。それは痴情のもつれと言うよりは、愛の世界だ」
マグギャランは言った。
「愛など無い!ロード・イジアの先祖は、三百五十年前には絶望と頸木の王の家臣だった!そして自由と平和と博愛の為に、絶望と頸木の王に逆らい。このアッパカパー要塞に立てこもった誇り高き我等がアッパカパー家の先祖を討伐しに来たのだ!」
アッパカパー伯爵は更に叫んだ。
「昔の事じゃん。絶望と頸木の王なんて今いねぇよ」
スカイは言った。
 「だがな、スカイ。絶望と頸木の王は宮宰だった悪の大魔術師「呪いの渦」と共に、一代でコモン全域を支配したんだぞ。その時に作られた大帝国の影響は今でも大分残っているのだ。歴史とは過去から今に続いている物なのだ」
マグギャランは真面目な顔で言った。
「あの、イジア家は、頭が、おかしいのだ。現在はイシサ聖王国とミドルン王国の、それぞれに属しているのに未だに、霧の谷の深い谷底を通るトンネルを掘って、我が、アッパカパー要塞に攻め入ろうとしている」
アッパカパー伯爵は言った。



ソークスと屍の決闘は続いていた。
 既に三百合以上も打ちあっているが、決め手は出なかった。
実力は伯仲していた。
 どちらが強いか判らなかった。
屍との戦いの中で、ソークスは、十三年前の大武術大会の決勝を思いだしていた。相手は二連覇を狙うハーベス王国の騎士アファルド・メナス。同じユニコーン流を使う者同士の戦いとなった。前回の優勝者だけあってアファルド・メナスは強かった。アファルドの戦いを闘技場の観戦席から見てソークスは恐怖を感じた。アファルドの剣は殺意の塊だった。だが、ミドルン王国の代表となった以上、ソークスは負けることは許されていなかった。命惜しさに降参する事はルール上は許されているが。このコモン各国の威信を賭けた大武術大会では、降参する者は一人も居なかった。そういう大会だったのだ。あの頃のソークスは名誉を手に入れ、強い武芸者になりたい一心でミドルン王国の予選に参加した。血気盛んな若気の至りに、幸運の女神の微笑みもプラスされたのかミドルン王国の予選を通過し、大武術大会の本戦の決勝トーナメント出場者のミドルン王国代表の一人として選ばれたソークスだった。
だが、大武術大会が開催され闘技場の試合を見たとき、ソークスは自分の浅はかさを思い知らされたのだ。紛れもなく、それは、殺し合いにつぐ、殺し合いの連続だった。そして明らかにソークスより格上の強者達が集まってきていた。そしてソークスは槍を振るって自分の命を守るために戦った。死にたく無かったから戦ったのだ。
 本戦のトーナメントで行われる戦いの中で、何度も、死にかけた。だが、そのたびに、ソークスは文字通り命懸けで強くなっていった。途中からダーク・ホースと呼ばれはじめ、本命視されていなかったソークスはミドルン王国から選出された武芸者の中では注目が集まらなかったことが幸いしたのか、余計なプレッシャーに、さらされずにトーナメントの決勝まで勝ち上がっていった。
 そして、ソークスはアファルド・メナスと対峙することになった。
だが、天はソークスを見捨てては居なかった。アファルド・メナスは準決勝で優勝候補の一人と戦い手傷を負っていたのだ。
ソークスが槍使いだった事も幸いした。間合いが槍の長さの分だけ多く取れた。剣の間合いではなく、槍の間合いで戦えた。
そして今の屍との戦いと同じように、ソークスの槍とアファルド・メナスの剣は何度も打ちあった。決勝トーナメントの命を賭した戦いを通して、勝ち上がる事によってソークスはアファルド・メナスと同じぐらいに強くなっていた。
ソークスは、屍との戦いで過去の思いが吹き出してきた。