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情熱のアッパカパー要塞

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「お前は、戦う事が楽しく無いのか」
 屍はローサルの首を左手で掴んだまま言った。
 「戦うことは成り上がるための手段だ」
「命の、やり取りぐらいに面白い事が他に在るか。これこそ人生だ。生きている証だ」
 屍は言った。
「そんな事に興味はない。俺達は力を手に入れて、誰も見下せない高い所に登るんだ」
 ローサルは言った。
 「お前は王になりたいのか」
 「ああ、そうだ。俺は王になる男だ」
 ローサルは言った。
 命が終わる瞬間に嘘は言えなかった。
だが、王に、なる前に、このフラクター出身のバケモノに殺される事になる。
王になりたかったぜ。
 ローサルは思った。
 「成る程、やはりそうか、お前の顔には野心が、たぎっているからな。いい返事だ、殺すのは止めた」
 屍は笑みを浮かべると言った。そしてローサルの首から手を離した。ローサルは片膝を付いて咳き込んだ。
「俺が殺すのを止めたんだ。必ず王になれ。そして幾千万の軍勢を率いて俺を殺しに来い。そうすれば楽しい遊びが出来る」
 屍はローサルに言った。
 成る程、砕破の言うとおり、いい奴だ。
王になりたいというローサルの途方もない夢を馬鹿にしないで本気で信じた。
「必ず王になって、お前を殺してやる。それが、俺を生かした、お前に対する精一杯の礼だ」
 ローサルは屍に言った。



ソークス達はリート・ボンドネードから聞き出した小イジアの居場所を目指して駆けていた。
 マウドの傷はルエラの医療魔術で治ったが。
 切られて血を失ったせいでマウドの顔は青ざめていた。今は飛行形態に変形したペロピンに乗っかって運ばれている。
「ここだ。ここが「第105賓客室」だ」
 ソークスは言った。
 扉の回りにはイシサ聖王国の騎士達が五人凍り付いて死んでいた。固まった氷が溶けて床を水が濡らしていた。
だが、異様な濃厚な気配がしていた。炎天下の中で太陽光線を浴びているような妙な気配が辺りを覆っていた。
これは殺気なのか?
 ソークスは過去にも、似た気配に覚えが在った。 



「第105賓客室」の中にはボンドネード・ファミリーとキャンディ・ボーイズが居た。
キャンディ・ボーイズの白いロープの男と、赤いベストの男は、大怪我を負っているらしく、眼鏡を掛けた男が治療の為の魔術を使っていた。だが、白いローブの男は倒れて口から血を吐き続けていた。吐き出された血の量からして、命が助かるかどうかは判断しきれなかった。赤いベストの男も、脇腹を押さえて呻き声を上げ、のたうちまわり続けていた。
「お前がソークスか」
ソファーに腰を掛けた男が言った。入ったときから、物凄い力量を感じていた。
 この男が屍で在ることは一目で分かった。
 「私は医師です。助かる人の命は助ける義務が在ります。キャンディ・ボーイズの怪我人の治療を手伝います」
 ルエラが屍の殺気に押されて青ざめた顔でソークスに言った。
 そしてキャンディ・ボーイズの怪我人達の方へ歩いていった。
「お前は、コモンの大武術大会で優勝したんだな」
 屍は言った。
 「ああ、そうだ」
 ソークスは答えた。
 「俺と戦え」
 屍は言った。
 「一騎打ちか」
 「当然だ。余計な横槍が入るのは面白くない」
屍は言った。
 「それならば。俺は受けよう」
 ソークスは槍を振りかぶった。
 「話が早い」
 屍は立ち上がって太刀を抜いて鞘を投げ捨てた。
 その瞬間に常軌を逸した殺気が膨れ上がった。物凄い殺気の量と密度だった。
 その場にいるボンドネード・ファミリーとキャンディ・ボーイズも青ざめた顔をしている。小イジアと2人の男達もだ。
 十三年前の大武術大会の決勝試合の時と同じだった。相手は、同じユニコーン流剣術を使うハーベス王国の騎士だった。大武術大会は国内予選の時から命を賭けた本当の殺し合いだった。
 ルールは、どちらかが死ぬか、降参する以外に無い。
あの時は、大観衆が見守る中で戦いが行われた。今は、少しの立会人しかいないが。同じだった。ソークスは、いつもは押さえている殺気を全て解放して出した。
屍が笑い出した。
 「ハハハハハハハ!そうでなくちゃ面白くない!」
 屍は両手で太刀を握った。
 ソークスは「三本足の構え」を取った。
 「行くぞ!」
 屍が、無造作に動いて太刀を担ぐように構えたまま突進してきた。
 幽鬼の様に小細工はしない様だった。
 それはソークスも望むところだった。
 血が滾ってきた。
 十三年前の決勝で偶然勝つことが出来たときに忘れていた何かが身体の奥底から沸いてきた。俺は、これを待っていたのか。
 ソークスはスピンドル・スラストで槍を突きだした。
 屍は太刀を振るった。ソークスの槍と屍の太刀が打ち合わさった。
 ソークスの槍が屍の太刀を弾いた。だが、同時にソークスの槍も屍の太刀で軌道が逸れていた。
強い。
 そう、ソークスは感じた。
 屍の顔から笑いが消えた。

 

「オマエ達が冒険屋グループW&M事務所か」
 アッパカパー伯爵は捕らえれた3人組を見ていた。三人とも、手に鉄製の手枷を着けられていた。
 「そうだよ」
 金髪の目つきの悪い少年スカイ・ザ・ワイドハートが言った。
「なぜ、国境侵犯をして、我が、アッパカパー要塞に忍び込むような馬鹿げた事をした。イジアに忠義立てする理由でもあるのか」
アッパカパー伯爵は言った。
「それだけでは、在りません伯爵。こ奴等は、半日町の城門を奪ったロボット「虐殺王」で破壊して町の中を暴れ回って、このアッパカパー要塞の正門を破壊して堂々と正面から中に侵入をした、とてつもない大馬鹿者達です。奇跡的に怪我人が出なかったら良かった物の。半日町と要塞の城門は破壊されたままです」
 ドウンが額に青筋を立てて顔を真っ赤にして言った。
 「我々は冒険屋です。金で動くのです」
 黒髪の育ちの良さそうな顔をした若い男マグギャランが神妙な顔と声で言った。
「金さえ出せば何でもするのか」
 アッパカパー伯爵は腹が立った。
 「金さえ払えば、大体のことをするのが冒険屋だ。問題はねぇんだよ」
 スカイ・ザ・ワイドハートが聞き苦しい下品な言葉で言った。
 「金に魂を売ってはいかん。金欲しさに、このような馬鹿げた事をやったのか」
アッパカパー伯爵は言った。
「まあ、平たく言えばそうだな。一定の生活水準を維持するためには、こういう汚れ仕事に近いダーティワークの仕事も、こなしていかないとダメなんだよ」
スカイ・ザ・ワイドハートは言った。
「こんな、事が上手く行くと思っているのか」
アッパカパー伯爵は言った。
「上手く行くはずだったんだよ。ちょっとばかりドジ踏んで、捕まっただけさ。今度は上手くやるよ」
スカイ・ザ・ワイドハートは言った。
「上手く行く筈など無い。邪な行動は必ず天に罰せられるのだ。因果応報という言葉を知らないのか」
アッパカパー伯爵は言った。
「俺達、生活が掛かって居るんだよ。こういったトラブルや、もめ事が俺達のビジネスなんだよ」