情熱のアッパカパー要塞
「何だ。何で小イジアが居るのにボンドネードが居るんだ。おいリート・ボンドネード。どういうことか説明しろよ」
ローサルは言った。
寝そべっている男がニヤリと笑った。獣の様な笑いだ。この男から異常な殺気が発されている事が一発で判った。
「お前達が、キャンディ・ボーイズか」
男が言った。
「ああ、そうだ。お前は屍だな」
ローサルは砕破の言った事を思いだして言った。
屍様と戦おうなどとは考えない方がいい。
「その通りだ。お前等は俺と戦うんだろう。このボンドネード・ファミリーは、俺と戦いたく無いらしい。実に面白く無い連中だ」
屍は言った。
こいつと戦う事は危険であることは判っている。砕破のボスだ、あの超高速で振り回す金棒を使う砕破より強いことは間違いない。砕破の言った事が頭の中で思い出された。だが…
仕事を降りることは出来なかった。
現在の成功率七十三%を上げなければならなかった。ボンドネード・ファミリー以上に仕事の成功率を上げて権力を握っていかなければならなかった。成り上がるためには、ボンドネード・ファミリーとの競合ルールで勝ちを納める必要があった。そしてボンドネード・ファミリーの権力を奪うのだ。
幾ら相手が剣豪でも負けるわけには行かなかった。タビヲンの四剣士の一人、屍を倒せば名声が手に入る。これはローサル達にとって必要な物だった。
全面攻撃を掛けるしかなかった。
「俺は、戦うぜ。お前等はどうする」
ローサルは剣を抜いて背後の仲間達に言った。
「俺はローサルに付いていくぜ」
ソフーズが言った。
「敢えて死地に飛び込むことも仕方は無いでしょう」
ターイが言った。
「雷光の裁定学派は戦いを恐れない。いかなる敵も雷光で焼き払う」
シャールは言った。
「よし、それで、ようやく。この仕事をする価値が在るという物だ」
屍が鞘に入った剣を持って立ち上がった。そして、剣を肩に担いだ。
「それじゃ、お前達行くぜ!」
ローサルは屍の殺気に負けないように気を張り上げて叫んだ。
ローサルは横に飛んだ。背後から、シャールの雷光が屍目がけて走った。だが屍は雷光を避けていた。避けたように見えなかったが雷光が当たらなかった。雷光が自分から避けていくように見えた。
「楽しいな。色んな攻撃を、俺にしてこい。そして俺を楽しませろ」
屍は剣で肩を叩きながら笑って言った。
どうやって、シャールの雷光を避けたのか判らなかった。シャールの雷光のコントロールは正確無比だ。外す筈は無かった。
シャールは、更に頭上に雷光球を作り、そこから雷光を連続して屍目がけて発した。これは、雷光の裁定学派の高等呪文「雷光の嵐」だ。だが、屍は立て続けに降り注ぐ雷光を全て避けた。こんな事は今まで一度も見たことが無かった。
「ソフーズ、ターイ。接近戦を仕掛ける」
ローサルは剣を構えた。昨日のカーマインとの戦いは女相手だから手を抜いていたが。
屍は命懸けで真剣に全力を出して戦わねばならない相手だった。いや、全力以上を出さなければならない。ソフーズもターイも判っている筈だ。
「判った」
ソフーズが言った。
「判りました」
ターイもソフーズと、ほぼ同時に言った。
三人で一斉に切りかかった。
ソフーズは、細身の刺突剣でクロウラー流速剣術の皆伝技の連続突き「千本槍」を使い。
ターイは、1メートル八十?の長さのある鉄節鞭で、サーペント流の秘術「海蛇」を掛けた。
ソフーズの、「千本槍」は追い込む為の囮でターイの「海蛇」がしなって横から襲う。
「海蛇」で体勢を崩した所へ、ローサルが本命の剛剣で切り捨てる。
何度も成功してきた連携だった。
ローサルは屍目がけて切り込んだ。
屍は笑った。そして肩に担いでいる剣を鞘ごと振るった。
ローサルの剣は屍の剣に受け止められていた。いや、ソフーズの刺突剣も、ターイの鉄節鞭の先端の分銅も屍の剣の鞘に止められていた。
「どうやったか判るか?」
屍が笑った。
いつもの連携が通用しなかった。何故だか判らないがローサル達は連携を止められたのだ。
「何しやがった」
ローサルは剣を引き離そうとしたが離せなかった。
「これはタビヲンの剣術の技、切羽止めだ。真似をしているだけだが。面白い技だろう」
屍が言った。
「シャール!」
ローサルは援護を頼んだ。
シャールが頭上に作った雷光球から雷光が
屍目がけて走った。
「甘い」
先に屍が剣を鞘ごと動かしていた。それに連れて、ローサル達も一緒に体勢を崩していた。
体勢を崩したターイの背中にシャールの雷光の直撃が当たった。
「うっ!」
ターイが悲鳴を挙げて倒れた。
ローサルと、ソフーズも倒れた。
「くそっ!汚い真似しやがる!」
ローサルは床に倒れたままターイを見て言った。
「牽制の雷光だ威力は低い。ターイは、まだ生きているはずだ」
何時も冷静なシャールが同士討ちを出したせいか狼狽した声で言った。
「雷撃ばかりを見るのも面白く無いな。厭きた」
屍は剣を鞘ごと担いで肩を叩いて言った。
「ローサル、ソフーズ、ターイを連れて離れろ。雷光壁から、あれをやる」
シャールが言った。
あれとは、雷光檻だ。雷光の檻を作る魔術だ。
「判った!」
ローサルは言った。
そしてソフーズも立ち上がってターイの両腕を左右から持って屍から距離を取った。
シャールが頭上に作った雷光球から、連続して雷光が発せられた。
そして屍、目がけて雷光が壁となって殺到した。これは単発の雷光ではない。雷光の塊だった。そして屍の回りを囲み始めた。
「エターナルの雷撃よりは面白いな」
屍は、そう言うと鞘から剣を抜いた。
その瞬間。
異常な事が起きた。
殺気が膨れ上がったのだ。
それはローサルが今まで戦ってきた、如何なる人間とも、モンスターとも違う異常な殺気だった。ローサルの身体は硬直した。
そして屍は剣を振りかぶり、シャールが作ろうとしている雷光檻に向かって上から下へ無造作に振り下ろした。
その瞬間シャールの雷光檻が上から下へ切れた。
雷光が左右に千切れて飛んでいった。
「俺の雷光を切った!」
シャールが叫び声を上げた。
とんでもないバケモノだ。魔術で作った雷光を切るなんて、誰も出来るはずは無かった。
「魔術師は色々な攻撃をしてくるから楽しいが、雷撃ばかりとは、少々味気ない」
屍は剣を振りかぶってシャールへ向けて歩いていった。
「「雷光の裁定」学派の魔術師は戦場で死ぬことを誇りとする」
シャールは固まったまま言った。
「結構」
屍はシャールの左肩から袈裟切りにした。
シャールは倒れた。
「ローサル。あの世でも連もうぜ」
ソフーズは刺突剣を構えて。屍に向かって突きを放とうとした。だが、屍の振り下ろした剣が刺突剣の刀身を折って、ソフーズの胴を右に抜けるように切り抜いた。
屍はローサルの前に立った。
ローサルは殺気で強ばる身体のまま、剣を振りかぶった。
だが、屍が一瞬で間合いを詰めて、ローサルの首を左手で掴んだ。
ローサルは動けなくなった。
作品名:情熱のアッパカパー要塞 作家名:針屋忠道