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情熱のアッパカパー要塞

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 ゆっくりと動く幽鬼から動きに合わせて薄いが密度の高い殺気がソークス目がけて吹き付けてきた。いやジワジワと殺気の密度が上がっていく。これがマウドが切られた原因だ。マウドは仕掛けに気が付かなかったようだ。
「秘剣ゆ…」
幽鬼の動きが止まった。
 ソークスは逆に鋭く密度の高い貫く光の線状の殺気を槍の先端から放った。幽鬼の顔が硬直して身体が固まった。
 ソークスは「鎧通し」をスピンドル・スラストで打ち込んだ。
 幽鬼の持った太刀が中程から折れて吹き飛んだ。そして幽鬼の胴に深々とソークスの槍は刺さった。
 ソークスをリバース・スラストで槍を引き抜いた。血が幽鬼の腹から吹き上がった。
「俺の勝ちだ」
 ソークスは幽鬼に背中を向けてから、顔を後に向けて言った。
だが、幽鬼は何も答えずに口から血を吐いて倒れた。



「ここが、小イジアが捕らえられている部屋だ」
 リート・ボンドネードは小声で言った。
 部屋の扉の上には「第105賓客室」とトレーダー語で書かれていた。
「イシサの聖騎士達が居るわよ」
 コーネリーが言った。
 五人の全身鎧を着込んだ完全武装の聖騎士達が居た。
「全面攻撃で殺す」
 リート・ボンドネードは言った。
 「兄さんも、余所の国に不法入国しているからって、悪さの限りを尽くしすぎよ」
 コーネリーは言った。
 「ボンドネード・ファミリーはコーラーの命令に従うのが掟だ、邪魔な障害物に余計な情けを掛けるな」
リート・ボンドネードは言った。
 「はいはい、判りました」
 コーネリーは言った。
 「コーネリー。お前がフリーズ・ドライ・ボールを床に打ち付けて聖騎士達の足を封じろ。そして一気に始末を付ける」
 リート・ボンドネードは言った。
 少しの時間が掛かった。
 コーネリーのフリーズ・ドライ・ボールが見張りをしている聖騎士達目がけて飛んでいった。そして予定通り、聖騎士達の足を凍らせた。
 聖騎士達は慌てて身体を動かし始めた。口々にイシサ語で叫び声を上げていた。だが足が凍り付いている。鎧やブーツ越しであるとはいえ。コーネリーのフリーズ・ドライ・ボールは足の骨の髄まで凍らせる。
 「リッキーン「影の鳥」を解け。これから、聖騎士達を皆殺しにする。イオラ、弓で射殺せ」
 リート・ボンドネードは言った。
「動けない人間を撃つ事は出来ません」 
 イオラが言った。
何を言っている。リート・ボンドネードは苛立った。コーネリーの魔術の使用回数の上限に余裕を持たせるためにはイオラの毒矢を使う方が効率が良かったのだ。イオラのスコービオン射貫流弓術の秘矢「スティング・アロー」は鎧を貫通させることが出来る。毒矢と組み合わせれば。遠距離から安全に障害となる鎧を着た戦士や騎士達を殺す事ができるのだ。
 「コーラーの命令だ射殺せ」
 リート・ボンドネードは言った。
 「私には出来ません」
 イオラは言った。
「一族の会議に掛けるぞ。ボンドネード屋敷の地下牢に入ることになる」
リート・ボンドネードは言った。
「それでも、出来ません」
 イオラは言った。
 何か様子がおかしかった。
イオラは、いつもコーラーの命令には従順だったからだ。暗殺も出来る能力を得ることを視野に入れてイオラはスカウトとして育てられた筈だ。どこで、反骨精神が入ったのかは判らないが。これは問題だった。だが、まずは、当面の障害である聖騎士達を素早く始末する事が肝心だった。
「仕方がないなコーネリー。魔術で聖騎士達の息の根を止めろ」
 リート・ボンドネードは言った。
「判ったわ兄さん。それではフリーズ・ドライボールを二回掛ける。それで聖騎士達の息の根を止めることが出来る」
 コーネリーが言った。
 そしてコーネリーはフリーズ・ドライ・ボールを二回使って五人の聖騎士達を凍り漬けにして殺した。それぞれ、身体を捻ったり手を伸ばしたりして,苦悶の動きをしたまま凍っていた。その光景はリート・ボンドネードに何の感慨も与えなかった。
 「小イジアの居る部屋へ入る。イオラ、扉を調べろ。それぐらいは出来るだろう」
リート・ボンドネードは言った。
 「はい」
 イオラは言うと扉の前に向かっていった。
 そしてイオラは動きが止まった。
部屋の前に近づくと、その扉からは濃厚な焼け付くような気配を感じた。これは、中にいるモノが、人間や、獣やモンスターよりも更に危険な存在であることをリート・ボンドネードに告げていた。
 だが、仕事を完遂させるためには、この中に入らなければならない。
 安全志向のリート・ボンドネードだった。戦うだけが術でないことを、良く知っていた。
 リート・ボンドネードは剣を腰にしまった。
 これから交渉を行う必要がある。
 そうリート・ボンドネードは考えた。
そして、リート・ボンドネードは、イオラに合図をした。イオラは青ざめた顔でドアのノブを回して扉を開けた。
中にはソファーに寝そべった、フラクター選帝国ヤマト領の黒い着流し姿の男が居た。
黒い髪を束ねて口に長い楊枝を銜えている。 他にも人は居たが。この男が直ぐさま目に入った。まるで野獣かモンスターを見たときの様だった。間違いない。この男が、傭兵団屍の主、タビヲン四剣士の一人屍だ。そうリート・ボンドネードは顔を見るまでもなく確信した。
「ようやく、最初のパーティが来たか。随分と待たせてくれたな。冬風め、余計な事をしてくれる」
男はフラクター製のカタナを持って立ち上がった。
 ソファーの横には、両手を鉄の手枷と鉄の鎖で縛られた小イジアが居た。
 小イジアの回りには2人の、小イジアの世話をしているらしい男達がいた。
 「助けに来たのか!」
 小イジアがリート・ボンドネード達に向かって走っていこうとした。だが横に居た男達に捕まった。
 ザラシ達が拉致した家族は、この右側のヒゲを生やした男の家族だった。顔写真を見て顔を覚えていた。
「ふーん。どうやら、お前達のパーティの中で一番、剣や武器を使うのが上手いのは、鎧を着た、お前だな」
 屍は、剣を鞘のまま肩に担いだ。
リート・ボンドネードは一目で見破られて、嫌だった。リート・ボンドネードは、いつもは戦闘力を押さえているのだ。アッパカパー峠でパンダや蜘蛛ザル達と闘ったときも、自分が習得しているバーバリアン流乱舞剣術は隠していた。ケーやリッキーンのレベルに合わせて、剣技を使ったのだ。
「小イジアの身柄が欲しければ剣を抜け。そして戦い、俺を楽しませろ」
 屍は言った。
こんな化け物と戦う気は無かった。屍は押さえているが。圧倒的な濃さの殺気が少しではあるが漏れていた。それは、リート・ボンドネードが今まで戦ってきた剣士や戦士、騎士、野獣、モンスターなどとは比べ物にならないほどの危険信号をリート・ボンドネードの脳裏に点滅させていた。今回、用意されたメンバーでは、全員で総攻撃を掛けても屍を殺すことは不可能だと判った。
 リート・ボンドネードは、いきなり土下座をした。
「命を見逃して下さい」
 リート・ボンドネードは、頭を床に着けて命乞いを開始した。