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情熱のアッパカパー要塞

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 スカイは思い出しながら言った。
「ああ。ビビリュウムはフラクターの科学という魔術には無くてはならない鉱物資源だ。フラクター選帝国はビビリュウムなどの鉱物資源をコモンに求めているのだ」
マグギャランは言った。
「…フラクター選帝国の鋼鉄の歯車学派が作っている家電に使う…」
 コロンがボソリと小声で言った。
「まあ、取りあえず、俺達も、ロード・イジア要塞に入る前に腹ごしらえでもしようや」
 スカイは言った。
「正解だぞスカイ。俺は今になってからヤケ食いをしたい気分なのだ。何か、こう無性に、たまらなく裏切られた気持ちなのだ。憤懣やるかたないとは、この事だ」
マグギャランは言った。
 スカイ達はレストランの場所を聞いて歩いていった。坂道の上の方にレストランはあるらしかった。イジア料理という郷土料理が食べられるレストランらしい。
「喧嘩だぞ!」
 叫び声が上がった。
 スカイは、そっちの方を振り向いた。坂道の上の方らしい。人が駆けていって集まっているようだった。
 「どうやら、もめ事のようだな」
 マグギャランが言った。
「火事と喧嘩が在れば野次馬するのが当然だよな」
 スカイは笑いながらマグギャランを見て言った。
「まあ、当然と言えば当然かな」
 マグギャランも笑いながらスカイを見て言った。
 「それじゃ見に行くか」
 スカイは元気良く小走りで走っていった。
 「当然だぞスカイ」
 マグギャランも笑い顔のまま小走りで走ってきた。
 「…喧嘩はダメ」
 コロンも駆けながら言った。
 「別に、俺がやっている訳じゃねぇよ。コロン姉ちゃん」
スカイは振り向きながら言った。
コロンは走りながら首を横に振っていた。



「姫様、このまま、ロード・イジア要塞へ行きますか」
ジェラールがミラーナ・カーマインの白い愛馬「白駒」に黒い軍馬を寄せて言った。ジェラールはカーマイン家の軍事部門の長だった。そしてミラーナの剣術の師でもあった。薄い藤色のコートを黒いマントの下に着て髭を生やしていた。そして両手持ちの大剣を背中に背負っていた。ミラーナは丈の短い上腕部が膨らんだ赤い上着と赤い乗馬ズボンに白いロングブーツを履いていた。そして首には白いスカーフを巻いていた。腰には炎の魔術が掛かっている銘の在る、カーマイン家の家宝の宝剣「烈火」を差していた。手綱を握る手は白い子牛の革の手袋で覆われていた。
「山道を登ってきて疲れている所など、依頼主のロード・イジアに見せる訳にはいきません。我々は休息を取って身支度を整えましょう」
ミラーナは手綱を握ったまま言った。
 「確かに、この老骨には、パレッアー山脈の山道は、こたえますからな」
 魔術都市エターナルの黒い外套からハンカチを取りだして、額に浮き出た汗をカーマイン家の元家令ナバーガーは拭いていた。栗色の毛並みに白い額の馬に乗っていた。
 ナバーガーは六十二歳で、もう老人と呼ばれる年齢だった。元々、エターナル出身の魔術師で家令だったナバーガーには山道を馬に乗ってでも通ることが辛いことは判っていた。だが仕事で在れば仕方がなかった。そしてミラーナ達が果たさねばならない使命の為にも必要な事であった。
「我々は、レストランで休息を取ることにしましょう姫様。我々には休みが必要です。それとビアグラス一杯のビールなどが必要です」
 ラヒアが茶色い毛並みの馬に乗ったまま言った。ラヒアは元カーマイン家の典医だった。
医療魔術と呼ばれる技術に長けていた。白い外套を着て髭を蓄えていた。
ラヒアは五十三歳であり、ジェラールも五十四歳でカーマイン団の男性の、3人のメンバー達は全員五十代を越えていた。ミラーナ・カーマイン自身は二十歳だった。
 「判りました、レストランで休みましょう」
ミラーナ・カーマインは言った。
「姫様、私がレストランの場所を聞いて参ります」
 スカウトとして家臣にしたラーンが灰色の毛並みの馬から身軽に飛び降りながら言った。ラーンは黒い革の上下を着て両腰に一本ずつ、計二本の短剣を差していた。
 ラーンはミラーナ・カーマインより年齢は五歳上だが。カーマイン団の中ではリーダーは最年少のミラーナ・カーマインだった。ミラーナ・カーマインは兄弟が殺された為。カーマイン家の跡継ぎだったからだ。そして鋸卿を議長とする議会に乗っ取られたカーマイン大公国の所領の回復が使命だった。



スカイ達は走って坂の上に辿り着いた。  坂の上にはレストランが在って外で食べられるようにテーブルが出ていた。そして見るからに冒険屋らしいパーティが二組居て対峙していた。男3人に、女2人のパーティと男四人のパーティの2つだった。
「スカイ!ビンゴだ!美女発見!」
マグギャランは腰に両手を引いて叫んだ。
 確かにマグギャランが言うとおり、抜き身の両手持ちの剣を持った赤い服の若い女は、相当な美人だった。
「よく見て見ろ、あの女は、ミドルンの冒険屋の中でも有名なカーマインだ」
スカイは思い出しながら言った。
 「カーマイン女卿か?相手は男ではないか。いかんぞ、レディ相手に手を挙げるとは。騎士道的には無しだ。まず美人の時点で手を挙げてはいかん」
マグギャランは、もっともらしい口調で一人頷いて言った。
 「相手の男は、最近売り出し中の冒険屋のパーティ「キャンディ・ボーイズ」のリーダー、ローサルだ。二人とも俺達の競合相手のパーティに所属する奴等だ。そして冒険ジャーナルに載っていた事があるメンツだ」
スカイは冒険ジャーナルという業界誌を思い出しながら言った。
 「何で争っているのだ」
 マグギャランは言った。
 「さあな」
 スカイも全然事情が読めなかった。
「だが、実に美人だ。写真で見るより、実物の方が百倍美人に見える。気品在る佇まいに思わず見とれて呆けてしまい髪型をチェックする事すら忘れてしまった。いかんな、まずは紳士の嗜みをせねば」
マグギャランはコンパクトを取りだして。
手櫛で素早く髪を整えはじめた。そしてゴロジの香水の小瓶を取りだした。
確かにカーマインは、とてつもない美人だった。だが、纏ってるオーラは非常に厳しい感じの重さを持っていた。そして硬質の冷たい感じのする人形のような整った顔立ちをしていた。貴族達が持っている雰囲気を何倍にも密度を高めたような感じの人を寄せ付けない厳しく重いオーラだった。
「だが、俺達の商売敵であることも事実だ。奴等が潰し合えば、俺達は漁夫の利を得られる」
 スカイはローサルとカーマインを見ながら言った。確かローサルは23歳で、カーマインは20歳だった。
「スカイ。これは、俺の運命の出会いかもしれないのだ。俺はカーマイン女卿に助太刀するぞ。ここで出ていかなければ男がすたる」
 マグギャランはローズ・ミントの匂いがするブレス・ケアを口に吹き付けながら言った。辺りにローズ・ミントとゴロジの香水が混じった匂いが漂いはじめた。混ざると最悪の匂いだった。
しかたねえな。でもダメだぞ。コイツラは、ここで潰し合わせた方が、俺達の為になる。