情熱のアッパカパー要塞
「場所は判っている。君達は我がイジア王家の宿敵、イシサ聖王国のアッパカパー伯爵のクソバカヤロウの居城アッパカパー要塞に潜入して、捕らえられている、我が息子の救出をして欲しいのだ」
ロード・イジアは言った。
「それは、ちょっと、かなり不味い仕事だな」
スカイは狼狽えて言った。
要塞に潜入して救出しろだなんてムチャにも程が在るような仕事だった。
「心配することは無い、君達の他にも4っつのパーティを雇っている。だが、成功報酬を手に入れられるのは一パーティのみだ」
ロード・イジアは言った。
「何だよ、すんなり二百五十ネッカー(二千五百万円)を払わないのかよ。もっと素直に払ってくれよ」
スカイは言った。
どうも話が上手すぎると思った。これは冒険屋業界にある競合ルールだった。仕事の成功率を上げるために幾つかの冒険屋のパーティを同時に雇ったときに適用される冒険屋組合のルールだった。
「私も冒険屋を雇うことにして、依頼料の相談をしたところ、競合ルールというルールが冒険屋業界では在ることを知って、競合ルールで成功報酬を支払う事にしたのだ」
ロード・イジアは重々しい声で言った。
「余計な事言うんじゃねぇよ」
スカイは受付嬢に言った。
「これは組合の正式な手続きです。それに私が受け付けた時には競合ルールを知っていたようです。これは、他のパーティも受け入れている条件ですから」
受付嬢が言った。
「それで、二百五十ネッカー(二千五百万円)を見せ金にして俺達を釣ろうというのかよ。汚ねぇな。俺、競合ルールが嫌いなんだよ。ちゃんと前金を払うように言っておけよマグギャラン。これは冒険屋組合のルールだ」
スカイは言った。
確か冒険屋組合の競合ルールでは成功報酬の一割の前金を払う仕組みになっていた。
「依頼をするのなら前金を払って下さい」
マグギャランはスカイに頷いてから携帯に向かって言った。
「フラクター帝国銀行の君達の口座に今日中に前金の二十五ネッカー(二百五十万円)を入金する。これでどうかな」
ロード・イジアは言った。
スカイは、ふと嫌な予感がした。
二百五十ネッカー(二千五百万円)の仕事の競争に加わる、パーティとなるとメンツが心配だった。間違いなく、かなりレベルの高い連中が来ることは間違いは無かった。
「おい、マグギャラン、俺達の競合相手を聞いてくれ」
スカイはマグギャランに言った。
マグギャランも気が付いたらしくハッとした顔をした。
「判ったスカイ。それではロード・イジア。私たちの他に参加する冒険屋のグループの名前を教えて下さい」
マグギャランは携帯のマイクを塞いでスカイに返事をしてから言った。
「うむ、それは、ボンドネード・ファミリー。キャンディ・ボーイズ。カーマイン団。灼熱の翼の4パーティだ。だが、君達なら…」
ロード・イジアは言った。
スカイは自分の顔が、どんどんと強ばっていくのを感じた。
どいつもコイツも、皆、名前の通った一流の冒険屋のパーティだった。
「何だ、このポスターは」
スカイは、イジアの町の城門をパスポートを見せて、くぐって歩きながら、辺り一面に貼られているポスターを見ていた。城門の門番もスカイ達の事は知っているらしく。挨拶をして携帯で連絡を取っていた。だが、この、そこら中に貼ってあるポスターや看板は酷い物だった。
『アッパカパーを殺せ!』
『イジアの敵のアッパカパー!』
『国威発揚!見敵必戦!』
『毎日が戦争日』
『アッパカパーを倒せ!』
『突撃!突貫!血戦覚悟!』
「まあ、ロクな国では無いことは間違いはないな」
マグギャランは首を横に振って言った。
コロンも辺りをキョロキョロと首をすくめて見回していた。
「本当にミドルンなのかよ。ここはゼッテー別の国だよ。噂に聞く、タビヲンやイネンシやムヘコの様な恐怖政治の独裁国家に違いねぇな」
スカイは言った。
髭を生やして王冠を被った中年の男のポスターが、そこら中に張ってあった。そのポスターには『ロード・イジアを尊敬しよう』と書いてあった。
つまり、この髭面の男がスカイ達の依頼主のロード・イジアという訳だ。
「…言葉はミドルン王国の公用語ウダル語の西北地方の方言パレッアー語。文字はミドルン王国のウダル文字の異体字イジア文字…」
コロンは言った。
「いや、俺としては、こんな国の女に運命の出会いが在るとは到底望めん所が悲しい。酷く悲しい。愛の言葉を語る代わりに「皆殺し」とか「死刑」とか言いそうだ」
マグギャランは首を振った。
「頭、悪いんじゃねぇのか。こんな標語を沢山書いて何か意味あるのかよ」
スカイは辺りを見回した。この辺りの民族衣装らしい服を着た連中がウロウロして日常生活を営んでいる。男は膝まで在るズボンに
縞模様のソックスを履いていた。上着を羽織っているが、皆、似た感じのデザインだった。
スカイ達のように、今風のモードの服を着ている人間は少ない。女のスカートは足首まで在った。
「戦争とはな。一皮剥けば子供っぽい所が在る物なのだスカイ。これは、これで、戦時体制下としては、おかしくは無いのだ。だがな。そういう体制下の国の女に「何か」を求めることは不可能なのだ。それが、俺は酷く悲しいのだ。こういう山奥には、美女だけの秘境が在るとか、そういう男のロマンをかき立てる「何か」が必要だ。俺は1%ぐらいは、美女だけの秘境が在るという期待を胸に、山道を元気よく登ってきたのだ。だが、現実は、余りにも厳しく無惨だった。山奥で、こんなスローガンだかプロパガンダを目にするとは意外も意外でしかない。素朴な田舎娘が花輪の首飾りを首に掛けてくれて頬にチューしてくれるとか言うシチュエーションが全然無いではないか。俺は、とてつもなく疲れを今になって感じている」
マグギャランは疲れた顔で背中と腰を曲げて言った。
それが、奴が山道を一人で元気よく歩いてきたパワーの源だったのか。
やっぱりエロ本の読み過ぎだな。最近、奴が加入したケーブルテレビのポルノ番組のせいかもしれなかった。奴は、ポルノ番組を見るためだけにケーブルテレビに加入したのだ。
スカイは思った。
「まあ、取りあえず、ロード・イジア要塞に、ついて聞き込みをしようぜ。冒険屋のルールだ。まずは依頼主を調べるというのはな」
スカイは言った。
「確かに、そうだな。だが、途中で、何度も通行人や、山小屋で噂は聞いてきたはずだろう」
マグギャランが言った。
「まあな。ここは三百五十年前ぐらいから争っている化石のような場所らしいからな」
スカイは道中で聞いた話を思い出しながら言った。
「このイジア国のロード・イジアが気前よく、冒険屋のパーティを五つも揃えるには、それなりに訳がある。希土類のビビリュウムを産出する鉱山がイジア国内に在るからだ。そしてフラクター選帝国にビビリュウムは運ばれていってフラクター選帝国魔術師領で家電に変わる」
マグギャランは言った。
「確かにビビリュウムを積んだ荷馬車が何台も、山道を通っていったからな」
作品名:情熱のアッパカパー要塞 作家名:針屋忠道