情熱のアッパカパー要塞
マグギャランが言った。
「おう、そうかい」
スカイは左手に持ったレバーを前に押し込んだ。ロボットの左腕の盾が城門の扉を殴った。一撃で、木を鉄で補強した城門が木の破片を撒き散らして、へこんだ。
「何という、馬鹿力だ、これが機械の力だというのか」
マグギャランは呆れた顔で言った。
「元々、この「虐殺王」は、攻城兵器として開発されたんですよ」
ニワデルは言った。
「そんじゃ、あと二、三発盾で城門を殴るぞ」
スカイは盾で城門を殴った。
アッパカパー要塞の半日町の城門が、へこんで木が吹き飛んで穴が開いた。
「伯爵様!ロボット、「虐殺王」がW&M事務所に奪われたとの知らせが入りました!」
ドウンが叫び声を上げた。
「何!あの巨大なロボットが奪われたのか!」
アッパカパー伯爵は叫んだ。さっき灼熱の翼が司令室に来たことも驚いたが。それに劣らぬ程驚く事だった。
「現在、城門を破壊して『半日町』の中に侵入して暴れているそうです」
ドウンが携帯を耳に当てたまま言った。
「ええい!何という事だ!ただのザコパーティと報告を受けていたが、何という悪辣な連中なのだ!我が愛しき、領民達が住む町を破壊するとは!」
アッパカパー伯爵は窓辺に向かっていって。窓を開けた。
窓を開けると、眼下の半日町では、巨大なロボット「虐殺王」が奪われて走っている光景が見えた。
W&M事務所が、あまりにもバカな事を、やっているのでアッパカパー伯爵は、怒りを堪えながら窓から見ていた。
これが冒険屋なのか。
何という悪辣な連中なのだ。
そうアッパカパー伯爵は思った。
「うおりゃああああああああ!走れロボット!」
スカイは、マグギャランとコロンとニワデルで、ぎゅうぎゅう詰めの操縦席でロボットを操っていた。
ロボットは半日町の中を走っていった。道行く人々が皆、慌ててロボットの前を避けていった。
「スカイ!スピードの出しすぎだ!俺達が振り落とされるぞ!」
マグギャランは言った。
「止め方が判んねぇんだよ!」
スカイは言った。
「おい、止め方を教えろ」
マグギャランはニワデルに凄んでみせた。
「フット・ペダルのブレーキを踏むのです」
ニワデルが言った。
「どのペダルだよ」
スカイは足で幾つもあるペダルを押しながら言った。
「右足で押せる脇のペダルです」
スカイはペダルを、思いっきり踏んだ。急に止まり始めて、スカイはニワデルごと前のめりになって吹き飛ばされそうになった。
「こら!スカイ!急に止まるな!俺達が吹き飛ばされるだろ!」
コロンの三つ編みを掴んだマグギャランが怒鳴った。ニワデルはスカイの上に落ちてきていて、前の視界を塞いでいた。
「動かし方のコツが判らねぇんだよ」
スカイは滅茶苦茶に動き出したロボットを扱いかねていた。
「何なのですか」
ポロロン様は窓の外を見ていた。
外から騒ぎの物音が聞こえてきた。
騒ぎが起こっている事はプリムにも判った。
それは冒険屋と呼ばれる、ならず者達が引き起こしている事は間違いは無かった。
ポロロン様は窓に近づいていった。
「窓に近づいては危険ですポロロン様」
プリムの先輩のマーガリナが前に出て身体を張ってポロロン様を止めながら言った。
「このような騒ぎが何故、起きるのですか」
ポロロン様は呆れた声で言った。
プリムは何か嫌な予感がして窓の外を見た。
城下町の半日町ではアッパカパー伯爵の雇った用心棒のロボット使いが操るロボットが剣と盾を持って駆けていたのだ。6、7メートルも在るから直ぐにプリムは発見した。
「さ、さあ、何とも言えません」
先輩のマーガリナが言った。言いながらプリムの方を見て何か促しているようだった。プリムも咄嗟に何と言えばいいのか言葉に詰まった。
マーガリナが困った顔をした。プリムも困った。
ポロロン様は外を見て首を傾げていた。
「あのロボットは確か、イジア国が軍備増強を押し進めているから、対抗するために雇ったのだと伯爵から聞きました。何故、町を破壊して走り回っているのですか。マーガリナ、プリム」
「わ、判りません。一体どういうことか、皆目見当が付きません」
マーガリナが言った。
「きっと、機械物だから、誤動作が起きたのですよ」
プリムは咄嗟に機転を効かせて言った。
「ええ、そうです、誤作動ですよ」
マーガリナも引きつった顔でプリムに頷きながら言った。
見ている端から、ロボットは半日町の町の中を破壊しながら駆けていた。
「誤作動で、このような事が起きる物でしょうか」
ポロロン様は納得が行かないような顔をしていた。
だが、プリムは判っていた。ロボットの胸に所に、何人もの人間が座っていることを。あれは、きっと冒険屋達に違いなかった。
ロボットを凶暴で狡猾な冒険屋達が奪ってしまって、こんな酷い騒ぎを起こしているのだと理解した。だがプリムはポロロン様に言うことは出来なかった。
「何だ、外が騒がしいな」
リート・ボンドネードは言った。
ザラシ達と合流して臨時のアジトにボンドネード・ファミリーは辿り着いた。アジトでは、ザラシ達が、アッパカパー要塞に勤める兵士の家族達を拉致して、情報を収集していた。
「まあ、いい。現在の所、小イジアの身柄は移動し続けているのだな」
リート・ボンドネードはザラシに言った。
「そうだ。今朝決まったらしい。こいつ等の家族の向こうの奴が隙を見て連絡を付けてきた」
ザラシは頷いて言った。
その視線の先には、女一人と十代に入る前の子供が三人いた。この四人はアッパカパー要塞で小イジアの世話をしている男の家族だった。ザラシ達は商店を開くという口実で半日町の空き家を一軒借りていた。
だが、その商店は開かれることはない。
この仕事の為だけに借りていたアジトなのだから。仕事が終われば消えるだけだった。
これが、リート・ボンドネードの仕事のやり方だった。
だが、外で起きている、騒がしい音がドンドンと近づいてきた。
リート・ボンドネードは何が起きたのかと怪訝に思った。
「外で、何が起きているんだ?この半日町は、普通の街だ。こんな異常な音が起きるわけがない」
ザラシも、そう思ったらしい。ザラシが今居る、二階の部屋の鎧戸を開けて外を見た。外を巨大な金属の塊が走っていった。
「あの、城門に居た金属のロボットが走り回っているのか」
リート・ボンドネードは言った。
だが、その時、リート・ボンドネードは、ロボットの胸にW&M事務所の魔術師の姿を見つけていた。
「何やって居るんだ、W&M事務所は」
リート・ボンドネードは言った。城門の関所を通る為にロボットを奪うなど。どんなバカ者でも考えつかないような滅茶苦茶な事を
しでかしていた。
「どうやら、脱落はしなかったみたいね。でもね、もう少し、ましな方法で城門を突破するのが普通の冒険屋よ」
コーネリーも呆れた口調で言った。
「まあ、いい。奴等の始末は、これからつければいい」
作品名:情熱のアッパカパー要塞 作家名:針屋忠道