情熱のアッパカパー要塞
「うおっ!」
スカイはバランスを立て直そうとして、ロボットの頭にしがみついた。出っ張った角にに手を引っかけて踏みとどまった。危うく6、7メートルの高さから落下するところだった。
ぬかるんだアッパカパー峠の道を歩いてきたから、ブーツの底が泥のせいか滑りやすくなっていたようだ。
そして、辺りを見回して、開けるためのレバーを捜した。スカイは、足下に突き出た手すりを見つけた。
これを引っ張るんだな。
おっし!
スカイは、手すりを引っ張った。だが開かなかった。
「畜生!何で開かないんだよ!」
内側から鍵を掛けているのかもしれなかった。スカイは、そこまで考えては居なかった。
考えてみれば、簡単に外から開くように作る必要は無かったのだ。
「「虐殺王」のメイン・カメラの前に載っているのは誰ですか」
女の声が、し始めた。
「俺は、スカイ・ザ・ワイドハートじゃい!」
スカイはヤケクソになって叫んだ。
「まさか、W&M事務所の!2人しか居なくて奇妙に思っていたのですが」
どうやらスカイ達の事を知っているようだった。
「はははははは!どうだ驚いたか!」
何で名前まで知っているのか、若干の疑念がスカイの頭を、かすめたが。やはりスパイなのかとも思うが、取りあえず今は、ロボットを奪う為に丁々発止の立ち回りを演じなければならなかった。
「何時の間に「虐殺王」に取り付いたと言うのです」
盾を持った、巨大な左腕がスカイの方へ向かってきた。
「アブネェ!」
スカイはロボットの頭の影に入って、ロボットの頭の右側に回り込んだ。スカイの髪を、巨大な盾の風圧が押した。あんな物で殴られたら、確かにマグギャランの言うとおり、即死は免れられなかった。
ロボットの頭が左右に動いた。
「メインカメラの視界から消えた?どういう事です」
スカイはロボットの頭の天辺に貼り付いていた。
そこからは、鎧を着た兵士達に追い回されるマグギャランとコロンが見えた。
マグギャランが繰り出される、槍の先端を切り落としていたりしたが。やはり多勢に無勢で、どうも追いつめられていった。
ちょっとばかり不味いぜ。
スカイは、ロボットに黄色い矢印のステッカーが張ってある事に気が付いた。
いや、よく見ると、そこら中に注意書きや矢印の様な物が描かれていた。
何だ、これは?
リアルタイプなのか。
スカイは矢印を、よく見ると、胸の出っ張りの黄色い矢印の中に文字が書いてあって。 『強制排除』とトレーダー語で書かれていた。
スカイは矢印の先に、手の平の大きさぐらいの蓋が付いている事に気が付いた。スカイはロボットの頭から胸に降りた。スカイは蓋を開けてみた。中にはレバーが在った。
スカイは引っ張った。
急にスカイの立っている胸の鉄板が浮かび上がった。スカイは咄嗟に、ロボットの角に、ぶらさがった。スカイの身体は宙に浮いた。そして鉄板が外れて飛んでいった。
スカイは、ぶら下がっている角の下を見た。
女が居た。茶色い長い髪にピンク色のフレームの四角い眼鏡を掛けた女だった。椅子のような物に座って両手でレバーを持っている。それに合わせてロボットは動いている様だった。
ロボットの盾を持った左腕が近づいてきた。
スカイは足でロボットの顔を蹴って手を離して、鉄板の内側に着地した。そしてナイフを抜いて女に突き付けた。
「降参しろ」
スカイは言った。
「まさか、こんな手で、この「虐殺王」が破れるとは。私の計算外だったわ」
女は両手を挙げて降参した。
スカイはマグギャランとコロンの方を見た。
どうも囲まれている様だった。
「おい、このロボットを動かして、あっちの兵士が集まっている方に寄せろ」
スカイは言った。
「ニワデル博士!どうしたのですか!」
鎧を着た兵士達の隊長らしい男が叫んだ。
何だ?ニワデルという名前なのか?
「今、「虐殺王」は、冒険屋パーティW&M事務所に乗っ取られてしまったのです」
ニワデルはマイクを取りだして喋った。声が拡大してロボットの口の辺りから聞こえてくるようだった。
「何ですと!」
隊長らしい男が叫んだ。
「おい、俺の仲間達を囲んでいる兵士達を追い散らせ」
スカイはニワデルに命令した。
「判りました。皆さん、危ないですから、そこの2人の冒険屋から離れて下さい」
ロボットが、ゆっくりと巨大な剣を振るって、兵士達を追い散らした。
マグギャランとコロンが、やって来た。
「スカイ。よく、このデタラメな作戦が成功したな」
マグギャランは言った。
「へへっ、俺のデタラメな作戦でも上手く行くときは上手く行くんだよ」
スカイは言った。
「これから、どうするのです。スカイ・ザ・ワイドハート」
ニワデルが言った。
「まず、俺の仲間達を、この操縦する場所に上げろ」
スカイは言った。
「判りました」
ニワデルは言うと。ロボットは屈んで、左腕の盾をマグギャランとコロンに差し出した。
マグギャランとコロンはロボットの盾の上に乗った。そしてスカイの居るところまでやって来た。そして操縦席の在る場所に足を入れて縁に腰を下ろした。
「おおっ、美人の、お姉さんではないか」
マグギャランは言った。
「お世辞は結構です」
ニワデルは眼鏡を直しながら言った。
「お姉さん、幾つですか」
マグギャランが言った。
「初対面で女性に年齢を聞く男が何処に居ますか」
ニワデルは言った。
「ああっ、いきなり説教されてしまった。でも、ちょっと嬉しいかも」
マグギャランは言った。
「おい、俺が操縦してみる」
スカイはニワデルに言った。
「あなたが?鋼鉄の歯車学派の魔術師には見えないわね」
ニワデルは言った。
「動かしているのを見て、大体、操縦の仕方は判った」
スカイは言った。
「そんな見よう見まねで「虐殺王」は動かし切れる物ではありませんよ」
ニワデルが言った。
「そこどいて、俺に動かさせろよ」
スカイはニワデルに言った。
「しょうがないですね」
ニワデルは座っている椅子から立ち上がった。スカイはニワデルの座っていた椅子に座った。
「よし!これからアッパカパー要塞へ乗り込むぞ」
スカイは言った。
「城門は、どうするのだスカイ!」
マグギャランは言った。
「パンチで開ける」
スカイは操縦席に座ったまま右足でペダルを踏んだ。ロボットは前に進み始めた。
ニワデルの真似をしてデタラメに操縦席の両脇に付いているレバーを握って引っ張った。ロボットの両腕が上がって剣と盾を持ったまま万歳をした。スカイは横に右手のレバーを↑側に、左手で持ったレバーを←側に開いた。
するとロボットも同じように動いた。
「何だ、意外と簡単じゃねぇかよ」
スカイは言った。
スカイは右手に持ったレバーを↑に動かしてロボットの剣を振りかぶった。そして↓に動かして城門目がけて振り下ろした。石を積み上げて作った城門の石が吹き飛んで亀裂が入った。
「スカイ、こういう物は剣で切るより、盾で殴った方が壊しやすいぞ」
作品名:情熱のアッパカパー要塞 作家名:針屋忠道