情熱のアッパカパー要塞
モンスター・サーカスの団長ワールワルズが髭と髪の毛が生えた人面犬を撫で回しながら言った。
「冬風?まさか、このアッパカパー要塞には傭兵団、屍が居るのか?」
ソークス・バンドが驚いた顔で言った。
「その通りですよ。ソークス・バンド。小イジアの護衛は、団長の屍殿がやっているのです。過去に大武術大会の個人戦の部門で優勝した、あなたと、タビヲンの四剣士である屍殿が戦うとなると。このワールワルズも観戦をさせていただきたく思いますな」
ワールワルズは笑いながら言った。
「これは、簡単な仕事では済みそうにないな」
ソークス・バンドが言った。
「これから、どうする」
印象の薄い男が言った。
「手当たり次第に小イジアの居場所を捜すしかないな」
ソークス・バンドは言った。
「えーっ。もう嫌だよ。そんな面倒な事やりたくないよ」
ロボット使いの娘が床に座り込みながら言った。
「それでは、アッパカパー伯爵。この場は失礼する」
ソークス・バンドがロボット使いの娘の首根っこを引っ張って引きずりながら言った。
「よし、作戦を思いついたぞ」
スカイは突然閃いた。
マグギャランは渋い顔をした。
「何だ。お前の作戦という物はデタラメで成功した試しが無いではないか。今の今し方も敵の待ち伏せが在ったし、あの国境越えは思い返してみれば明らかに罠だったではないか。俺達をすんなり通して、アッパカパー伯爵領の中に引きずり込んでから強い連中でボコボコにするという、えげつない罠だ。戦斧隊はコロンの爆裂火球で道を分断して逃れたが、訳の判らない怪物達がボンドネード・ファミリーと戦っていたではないか。一体どうするつもりなんだスカイ」
マグギャランは言った。
「あの、ロボットを奪うんだよ」
スカイは言った。
「奪って、どうするのだ?」
マグギャランは言った。
「あのロボットで城門を破って半日町の中に突入する」
スカイは言った。
「何てデタラメな作戦なんだスカイ。だが、どうやって奪うつもりなのだ」
「どっかに動かしている奴が居るだろう。そいつを、とっ捕まえて、俺達がロボットを操るんだよ」
スカイは言った。
「スカイ。今のロボットは昔のロボットとは違うのだぞ。最近はエターナルでは乗り込み型が開発されているのだ。あれは大きさからして多分乗り込み型だろう。操っている魔術師の姿が見えないからな」
マグギャランは言った。
「なら、簡単じゃねぇかよ」
スカイは言った。
「全然簡単では無いぞスカイ」
マグギャランは言った。
「よく考えて見ろよ、乗り込み型なら、人が乗るための扉か何かが付いているだろう」
スカイは、ロボットを見ながら言った。
「まあ、当然と言えば当然だ。だが、どうするつもりだ」
「身軽な俺が、ロボットに、よじ登って、扉をこじ開けて、乗っている奴を殴って奪う」
スカイはロボットを見ながら言った。スカイの勘では胸の当たりに人が乗っていそうな出っ張りがあった。多分、人が乗っているとすれば、そこだろう。
「殆ど猿レベルの知能指数の人間が考え出す作戦だぞスカイ。もっと人間になれ」
「何だよ、お前の方こそ、他にマシな作戦が在るって言うのかよ」
「無いな」
「じゃあ、俺の作戦で行くぞ」
「やはり、そう来るかスカイ」
「取りあえず、お前と、コロン姉ちゃんが、あのロボットと守備隊の気を引く、そして俺が、ロボットに、よじ登って扉を開けて、中の魔術師からロボットを奪う」
「だが、どうやって、あのロボットに取り付くというのだ」
マグギャランは言った。
スカイは、そこまで考えていなかった。
「どうするのだスカイ」
スカイが考えていないことを見抜いたらしいマグギャランが押しつけるように言った
「俺は、身軽だから、よじ登れば良いんだよ」
スカイは適当な事を言った。
「ダメだぞ、スカイ。今は置物の様に動かないが、俺達に気が付いたら、動き出す可能性は十分に在る。戦斧隊の話ではイジア国の中にスパイが居るらしいからな。俺達の姿や格好は筒抜けだと見るべきだ。動き出したらどうやって、よじ登ると言うのだスカイ。あの曲面の多い陶磁器のようなツルツルした表面では、よじ登ろうにも手や足を掛ける場所が無いのではないか」
マグギャランは言った。
スカイは困っていた。確かにあの6、7メートルある全高の胸部と思しき、場所に取り付く方法は何となく、スカイは、フリークライミングの要領で、よじ登れば辿り着けるように思っていたが。動き出すとなると、かなり難易度が上がることは間違い無かった。
まてよ。
「パラボラ・ジャンプだ」
スカイは言った。
「コロンのパラボラ・ジャンプは5メートルぐらいしか飛べないんだぞ、だが、5メートル飛べればいけるか?」
マグギャランは言った。
「…でも試してみないと」
コロンは言った。
「よし、コロン試して見ろ」
マグギャランがスカイを指さした。
「え、俺かよ」
スカイは言った。
「…うん」
コロンはスカイの背中を杖で、ひっぱたいた。
スカイの身体が足から火を吹いて上に向かって浮かび始めた。そして隠れていた薮の横の岸壁に飛んでいった。だが、途中で失速して岸壁の横に生えている木の枝にスカイは掴まった。
木に掴まってぶら下がっていると、城門の前の兵士や、一般人達が、スカイに気が付き始めた。
「おい、こっち見ているぞ」
スカイは木に、ぶら下がったままマグギャランとコロンに言った。
「しまった、見つかってしまったのか!」
マグギャランが頭をクシャクシャにして
叫んだ。
「おい、お前等、俺は、これから、あのロボットに何とかして取り付くぞ」
スカイは木をよじ登りながら言った。
「俺達はどうするんだ!」
マグギャランは叫んだ。
「あの、ロボットを、おびき出せ!」
スカイも叫んだ。
「ええい!判ったぞ。だが捕まっても知らんぞスカイ!」
マグギャランは叫んだ。
そしてスカイは木を、よじ登って、崖の上に辿り着いた。
下では、マグギャランとコロンがロボットの前に出ていった。
「ふはははははは!騎士の中の騎士!男子の中の男子!マグギャラン参上!」
マグギャランは剣を抜いて城門の前まで走っていって叫んだ。コロンもマグギャランの後に付いていって杖を振り回していた。
「ええい、面妖な、引っ捕らえろ!」
城門で警備をしている兵士達の隊長らしい男が叫んだ。
「待って下さい。それは、私達の相手です」
城門の横に居たロボットが女の声で話すと動き始めた。
マグギャランとコロン目がけてロボットが歩いてきた。
そして鎧を着た兵士達も手に剣や槍を持ってマグギャランとコロン達目がけて近づいてきた。
スカイは、チャンスを見計らった。
マグギャランとコロンが追い込まれていく。だが、ロボットは確実にスカイの眼下に近づきつつあった。
今だ。
スカイは意を決して、ロボットの頭上の崖から飛び降りて着地した。
だが、曲面を描いた突き出た胸部の上に着地してバランスを崩した。
作品名:情熱のアッパカパー要塞 作家名:針屋忠道