情熱のアッパカパー要塞
「弱ったな。戦斧隊の話では俺達の動向はアッパカパーの連中にバレているらしいからな。見て見ろよ、城壁の上に双眼鏡を持って監視している奴が居るぜ。これじゃ壁よじ登って、侵入することも無理だな」
スカイは十メートル近くの高さがある城壁を見ながら言った。
「だが、城下町の半日町を通らなければ中に入ることは出来ないようだな。半日町の奧の方に在る岸壁にアッパカパー要塞の城門が作られているらしいからな」
マグギャランはロード・イジアから渡された大雑把な地図を見ながら言った。
スカイは考えていた。そして上手い話を思いだした。
「だが、ロボットを倒した剣士の話もあるだろう。確か、金属を簡単に切れるぐらいに剣の切れ味を良くする魔術が在った」
スカイは思い出しながら言った。
これは有名な話では在った。ロボットは固いから普通に剣で殴っても破壊することは難しい。それで、より簡単に倒すために、剣の切れ味を良くする魔術があるらしいのだ。
「それは冒険騎士、ウンバッチャだ。ウンバッチャが鋼鉄の歯車学派の魔術師と決闘する話に出てくる」
マグギャランは言った。
「そういや、コロンはダンジョニアン城でダンジョニアン男爵を倒すときに火炎剣の魔術を使えただろう。あれは、石の塊のダンジョニアンを真っ二つに出来た」
スカイは思いだした。
「…あれは、書き留める前に忘れたの。とっさに作ったから、作り方も覚えていない」
コロンは困った顔で言った。
スカイとマグギャランも困った顔で互いに顔を見合わせていた。
どうするんだよおい。
リート・ボンドネード達は、アッパカパー要塞の城下町「半日町」の前にやって来た。
そして藪の影に隠れて「半日町」の城門の方を伺っているW&M事務所の三人を見つけた。そして、その視線の先には、鎧を着込んだ完全武装の兵士達と7メートルの背丈の巨大なロボットが居た。
「あらあら、行き詰まって居るようね、あの三人組は」
コーネリーが笑いながら小声で言った。
「奴等の能力では、半日町の城門を突破することは出来ないようだな」
リート・ボンドネードは言った。
「どうやら、あの三人組は、ここでストップのようね。脱落決定」
コーネリーが言った。
そしてリッキーンの「影の鳥」で影になった。
そして、正門を通る、荷馬車の一群と一緒になって通っていった。
そして、街の路地に入るとリッキーンは「影の鳥」を使う事を止めた。
目の前にはザラシが居てパイプを吸っていた。ザラシが愛用しているタバコの葉「ラーメル」の匂いがしていた。
「リート。来たな」
ザラシは言った。
「ああ、来た」
リート・ボンドネードは言った。
「アッパカパー要塞には厳重な警備網が敷かれている、今から、我々が設けたアジトに行って今後の作戦を立て直した方が良い。予定通りには進まない可能性が高い」
ザラシは言った。
「仕方が無いな」
リートは言った。
「こっちだ付いてこい」
ザラシは言った。
リート・ボンドネード達はザラシの後に付いていった。
「根拠は無いが。とりあえず。高いところを目指して来たが。当たりだったようだな」 ソークスは言った。
黒い板に金色の筆記体で司令室と書かれた
両開きの部屋の前に来た。
だが、その部屋の前には、額に13と書かれた燕尾服姿の少女が居た。そして頭に角の生えた月の輪熊が4匹居た。
「熊デンジェラス。1号から4号ランダム・アタック」
燕尾服を着た少女が鞭を振るった。
鞭が床の石を打つ音と共に月の輪熊たちが、ソークス達目がけて突進してきた。
「やれやれだな」
ソークスは槍を構えて言った。
そして飛びかかってきた、月の輪熊の胸に
スピンドル・スラストで素早く、槍を繰り出し心臓を一撃で止めた。
素早く、槍を引き抜きながら振り向き、リッカとルエラに向かった月の輪熊の心臓を横から槍で射抜いた。
「ひゃっ!」
リッカが、勢いがついたまま飛んできた熊の死体にぶつかりそうになり、足を跳ね上げて避けながら変な声を上げた。
マウドとルージェイも月の輪熊を一頭ずつ仕留めた。
「そんな。熊デンジェラス4頭が一分も経たないで秒殺されるなんて」
額に13と書かれた燕尾服の少女が呆然とした顔で鞭を持ったまま言った。
「悪いな。俺達は強い」
マウドが言った。
「アッパカパー伯爵が、ここに居るはずだ」
ソークスは燕尾服の少女に言った。
「そう。アッパカパー伯爵は、この扉の向こうにいる。でも、お父さんを殺さないで」
燕尾服の少女は言った。
「俺達は人殺しを、するために来た訳じゃない。小イジアの身柄を確保してロード・イジア要塞へ連れ帰ることが目的だ」
マウドが言った。
「扉には鍵も罠も無いようだ」
両開きの扉を調べていたルージェイが言った。
「よし開けて中に入る」
ソークスは言った。
そして両開きの扉をルージェイが開けた。
中に入っていった。
「アッパカパー伯爵は誰だ」
突然、司令室の扉が開き、槍を持った男が入ってきた。アッパカパー伯爵は昨日確認した灼熱の翼のリーダー、ソークス・バンドだと判った。その背後には、昨日履歴書で見たメンバーが顔を連ねていた。
「この狼藉者!」
ドウンが腰の剣を抜いた。
「待て、ドウン。君はソークス・バンドだな」
アッパカパー伯爵はドウンを制して言った。
「その通りだ」
ソークス・バンドは言った。
「この私がアッパカパー伯爵だ。私に何の用かな」
アッパカパー伯爵は言った。
「アッパカパー伯爵。あなたは小イジアの居場所を知っているはずだ」
ソークス・バンドは言った。
成る程。アッパカパー伯爵は思った。冬風殿が予想していた通りだった。
アッパカパー伯爵の元に小イジアの居場所を知るためにイジアが雇った冒険屋が来た場合、言うことは冬風が昨日の作戦会議で決めていた。
ドウンがアッパカパー伯爵を見て頷いた。
「我々は小イジアの居場所を知らない」
アッパカパー伯爵は言った。
「何…」
ソークス・バンドの顔が引きつった。
「嘘だ!このアッパカパー要塞の主である、アッパカパー伯爵が、小イジアの居場所を知らない筈はない!」
印象の薄い男が叫んだ。
「それでは、私が説明しましょう。私はアッパカパー伯爵家の家令ベシアです。私たちは、昨日、小イジアの居場所を誰も知らない作戦を採用したのです。これはアッパカパー伯爵様も小イジアの居場所を知らないと言う事を意味します。ただ、小イジアの身柄を1時間ごとに移動する際に小イジアの回りにいて小イジアを監視している数人の者達のみが場所を知っている事になりますが。彼等は携帯電話を持っていないため連絡を取ることは出来ません」
ベシアが言った。
「えーっ、またなの」
ピンク色の滅茶苦茶な服を着た若い娘が言った。後ろに居るロボットを使うロボット使いの娘だ。
「確かに、それでは。居場所が分からないな」
ソークス・パンドは言った。
「さすがは元、黒竜太子の軍師ですね。冬風殿は」
作品名:情熱のアッパカパー要塞 作家名:針屋忠道