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情熱のアッパカパー要塞

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スカイは薮から顔を出した。
 モンスター・ティマーの女は背中を向けていた。
 なぜ、攻撃してこない。
 スカイ達三人は顔を見合わせた。
 皆、首を傾げている。スカイも首を傾げていた。
 スカイ達はソロリ、ソロリと歩いて、巨大な石に開いた穴を潜った。
 モンスター・ティマーの女はスカイ達に背中を向けたままだった。
「通って良いのか」
 スカイは前に回ると額に6と額に書かれた女に言った。
 「ええ、あなた達はザコだから、ボンドネード・ファミリーと戦っている今は、構う必要は無い」
モンスター・ティマーの女は言った。
「と言うことは、ボンドネードの連中が、やられたら俺達と戦うと言うことか」
 スカイは言った。
 「そう」
 モンスター・ティマーの女はアッサリと言った。
「それならば、俺達は早く、ここを通過するに限るぞスカイ」
 マグギャランは、辺りをキョロキョロ見回しながらスカイの腕を、ひっぱたいて言った。コロンも頷いた。
 「W&M事務所!その娘を殺せ!」
 巨大なパンダと格闘しているリート・ボンドネードがスカイ達に叫んだ。
 「嫌だね。通しくれるって言うんだ。素直に好意は受けるもんだぜ」
 スカイは言った。
「さっき、戦斧隊の前に置き去りにされた恨みを今晴らすのだ」
 マグギャランが言った。
「そう言うことだよ」
 スカイは言った。そして、そそくさとボンドネード・ファミリーの横を通っていった。
ボンドネードファミリーの三人の男達は三匹の巨大なパンダと戦っていた。後衛の中年の女魔術師とイオラは、回り込んだ、道着を着た三メートルぐらいの背丈が在るサルと戦っていた。
道着を着た巨大なサルの連続回転蹴りを後に飛んで避けているイオラが非難がましい目でスカイを見た。



 リート・ボンドネードはパンダと戦いながら形勢を立て直す方法を考えていた。ようやく三匹のパンダの連携が見えてきた。作戦を立てる余裕が生まれていた。現在の状況はコーネリーとイオラが後に回り込んだ格闘技を使うサルによって分断されている。
 先にサルを始末しなくてはならない。
 だが、そのためには3匹のパンダの突進を、どうにかして止めねばならない。
あれを使うか。リート・ボンドネードは、自分の精霊「マッド・インファントリー」を使う事を考えた。だが。ボンドネード・ファミリーの家族にも親族にも、リート・ボンドネードは自分が精霊使いであることを子供の頃から隠していた。精霊使いは精霊を見ることが出来る。だから、リッキーンに気付かれないように「マッド・インファントリー」を使う必要があった。
 パンダ達が集中して、リッキーンに襲いかかる瞬間を狙った。
リッキーンは防戦で手一杯だ。
 そして「マッド・インファントリー」を使った。大地から現れた手が、格闘技を使う猿の足を、ひっぱった。サルは飛び蹴りの着地を行う瞬間で盛大に、ひっくり返った。
 僅か一瞬だった。今回のメンバーの中にはリート・ボンドネードとリッキーンの他に精霊使いは居ないはずだが。他のメンバーがリート・ボンドネードと同じように精霊使いの能力を隠している可能性を考慮して、一瞬だけ使ったのだ。
 「イオラ!蜘蛛ザルを撃て!」
 リート・ボンドネードは剣を振りかぶって、道着を着たサル目がけて飛びかかった。  
イオラは矢筒から矢を取りだした、長弓につがえて撃った。
 道着を着たサルは倒れた姿勢から跳ね起きようとしたがリート・ボンドネードの剣は心臓を狙って串刺しにしようとした。道着を着たサルは両腕を交差させて防ごうとしたが、リート・ボンドネードの剣は交差した両腕ごと心臓を刺し貫いた。
だが、心臓を刺したにしては手応えが違った。
道着を着たサルが暴れ始めた。
リート・ボンドネードは、剣を素早く抜いた。剣を道着を着たサルに奪われない様にするためだった。
ドサッと音がした。
イオラが弓を射た蜘蛛ザルが貼り付いていた崖から落ちた音だった。
 イオラの弓の腕は正確で蜘蛛ザルの額に矢が突き刺さっていた。イオラの使うスコービオン射貫流弓術は猛毒コロリンを塗った毒矢を使うのだ。どうやら、それが効いたらしい。
「サルスパイダーが死んでしまった」
額に6と書かれた娘が動揺した声で言った。
途端に三頭のパンダ達が動きを止めた。道着を着たサルも動きを止めた。
「もう戦わない。サルスパイダーを弔わなくては」
額に6と書かれた娘が涙を流してムチを振るった。そして歩き出した。
 パンダ達の動きも停まった。一斉に二足歩行で立ち上がって、額に6と書かれた娘の後に付いていった。
「どうやら、戦いは終わったようね」
 コーネリーが言った。
 「イオラの毒矢で勝負が付いたな」
 ケーが言った。
「モンスター使いの娘。なぜ、そのサルは心臓を刺しても生きている」
 リート・ボンドネードは聞いた。
「武道ザルは心臓が左右逆に付いている」
額に6と書かれた娘が涙を流しながら言った。
成る程。リート・ボンドネードは思った。
そして、歩いていった。



「賊共を引っ捕らえよ!」
槍や剣などを持った鎧で完全武装の兵士達がソークス達、灼熱の翼の前に立ちふさがった。
 ソークス達は、次々と現れる鎧姿の兵士達の武器を破壊したりしながら先へと進んでいった。この兵士達は、戦争に出たことも人を殺したことも無いようだった。一般人と変わらなかった。ソークス達は、殺さずに抵抗する能力を奪って先へと進んでいった。
「全く!相変わらずノアムの奴は、いい加減だな!」
 マウドが剣で兵士の利き腕を切り払いながら言った。兵士は腕を押さえた。
「リッカ!何で、光学迷彩が途切れたんだ!」
ルージェイがナイフで兵士の剣を持つ手首を切りつけた。腱が切れ血が吹きだし兵士は剣を落とした。
「誰だって、物凄く疲れたり限界に達したら、出来なくなるときは出来なくなるのよ!」
飛行形態に変形したペロピンで鎧を着た兵士達に体当たりを加えているリッカが言った。
「よりにもよって、兵士達の詰め所の近くで光学迷彩を解くな!」
 マウドが言った。
「このアッパカパー要塞に来たのは初めてなんだから、そんな風に都合良く行くはず無いでしょ!」
 リッカは言った。
「リッカの、せいではない。捕まえた兵士達が、アッパカパー伯爵の司令室の場所を教える代わりに兵士達の詰め所に俺達を誘導した。とにかく、このまま司令室を捜す」
 ソークスは槍を振るって兵士の手から剣を跳ね飛ばしながら言った。



ローサル達は、ダンジョンの中を歩いていた。シャールの持った杖から電光が光りを放ち、それを頼りに歩いていった。
 「古いダンジョンだな。イシサ観光ガイドのアッパカパー要塞に関する記述では。絶望と頸木の王よりも前の時代から、このダンジョンは存在していたらしい」
シャールが言った。
 「まったく、難儀な話だぜローサル。こんな、ダンジョンを作るなんて言うのは、どこのバカが考え出したんだろうな」
 ソフーズが地図を見ながら言った。
 「だが、このダンジョンを作った奴は力を持っている」