情熱のアッパカパー要塞
スカイ達3人は、スカイのサバイバル・ナイフの背に付いている鋸で切った藪の後に隠れながら先へと進んでいった。岩の間に掘られた道を歩いていく為、地形が途切れていて、先へ脇道から進めなくなった為。スカイ達3人は薮に隠れたまま、一旦引き返して、先へ進んでいった。巨大な岩を、くり抜いたらしいトンネルを幾つも通り抜けた所でスカイ達は、ようやく何が起きているのかが判った。
背中に6とスパンコールの様なキラキラ光る物で数字が書かれた銀色の燕尾服を着た手足の長い女が背中を向けてムチを振るっていたのだ。そしてその先には、ボンドネード・ファミリーが奇怪な怪物達を相手に剣を振るっていた。
爪が異常に発達した3メートルぐらいの背丈がある巨大なパンダ三頭に、道着を着たサルに、サルの頭が付いた巨大な蜘蛛が居た。
「ほう、あそこで戦っているのはボンドネード・ファミリーだな」
マグギャランは小声で藪の影から言った。
「さっき、俺達が戦斧隊と戦っている間に
余裕扱いて道の先を通っていった奴等だ」
スカイは言った。
「どうやら、待ち伏せは戦斧隊のみでは無かったようだな。当然と言えば当然だが。ここで俺達が取るべき行動は、ただ一つだな」
マグギャランは言った。
「ああ。当然、やられたら、やり返す物だよな」
スカイは言った。
「…どうするの?」
コロンは言った。
「決まっているだろう。俺達は奴等が森の木々に隠れて迂回したように薮に隠れたまま先回りをするのだコロン」
マグギャランは言った。
「…でも、この地形では迂回は出来ないと思う」
コロンは巨大な石が転がっている周囲を見回しながら言った。コロンの言うとおり巨大な岩に、くり抜かれた道を通らない限り前には進めそうに無かった。
「確かにそうだ。どうするスカイ」
マグギャランが聞いた。
「いや、このまま、ヤツらを戦わせておいて、ボンドネードが勝ったら後を付けていく、モンスター使いが勝ったら、逃げ出す」
スカイは考えながら言った。
「確かに、あんな得体の知れない怪物と戦うのは嫌な物だなスカイ。何故、あんなサルと巨大な蜘蛛が、くっついた怪物が生きているというのだ。不自然にも程があるぞ」
マグギャランは言った。
確かに変な怪物だった。
リート・ボンドネードは剣を振るっていた。
完全に戦力を読み誤っていた。今回の仕事のメンバー達は、アッパカパー伯爵が用心棒達を雇っていない前提で組まれていた。組んだのは家長で長兄のルーサー・ボンドネードだった。アッパカパー伯爵が雇った用心棒の内訳の知らせはリート・ボンドネード達がロード・イジア要塞に着いてから知らされたのだった。
ザラシ達がリート・ボンドネードに故意に情報を渡さなかった可能性が十分に在った。
ボンドネード・ファミリーの当主である兄達も含めて、仕事は一族の名声の為に確実に、こなしてはいても互いの仲は悪かったのだ。情報が何処からか漏れているようだった。
額に、6と書かれた。銀色の燕尾服を着た娘がムチを振るって、怪物達を操っていた。
リート・ボンドネード達は怪物を相手に苦戦していた。
陣形は前衛で戦えるスキルを持っているリート・ボンドネードとケーとリッキーンの三人が立っていた。この陣形では後方から、コーネリーの魔術とイオラの長弓による支援が来るはずだった。リッキーンの「影の鳥」は、戦闘に使える能力は無かった。
敵は怪物使いの娘が操る、三頭の巨大なパンダと、サルの頭が付いた蜘蛛一匹と道着を着て黒帯を締めた巨大なサルだった。
異常に発達した巨大な爪を持った三メートル近くの上背の在る、巨大なパンダがリート・ボンドネードに向かって腕を振るった。リート・ボンドネードは盾で受けながらパンダの力を逸らした。まともに受けたら肩が脱臼するか骨が折れるような剛力だった。
「イオラ!何を手間取っている!弓でモンスター・ティマーの娘を仕留めろ!」
リート・ボンドネードは巨大なパンダ達の攻撃を受けながら叫んだ。
「無理です!巨大なサルが暴れていて弓を放てません!」
イオラは叫んだ。巨大なサルが遊撃隊として、側面からリート・ボンドネード達の後方に回り込んで後方を攪乱していたのだ。
「メガトン・パンダ。オメガ・フォーメーション!」
額に6と書かれた娘がムチを振るった。
すかさずパンダが直立して三頭同時に一列に並んでリート・ボンドネードに集中的に攻撃を仕掛けてきた。
先頭のパンダが横殴りの一撃を仕掛けた。
だがフェイントを掛けてケーの方へ殴りに回った。飛びかかってきた二頭目のパンダの
タックルをリート・ボンドネードは盾で受けながらターンして避けながら剣で切りつけたが下がりながらの一撃で浅く入った。
「サル・スパイダー。ウェブ発射!」
額に6と書かれた娘がムチを振るった。
横の岸壁に回り込んでいたサルの頭が付いた巨大な蜘蛛が、リート・ボンドネードに尻の方を向けた。そして、糸を飛ばしてきた。リート・ボンドネードは、盾で受けようとした。
だが、反対方向から三頭目のパンダが跳躍してフライング・ボディ・アタックを仕掛けてきた。リート・ボンドネードはサルの頭の付いた蜘蛛の糸を盾で受けて、フライング・ボディ・アタックを掛けるパンダの巨体の下敷きにならないように右足を軸にターンして避けた。
だが、盾が蜘蛛の糸で絡め取られていた。
この粘着性では糸を切ろうとしたら逆に剣が絡め取られてしまう。だが盾を失っては防御が弱くなってしまう。不味い状況だった。
「コーネリー!糸を焼き切れ!」
リート・ボンドネードは叫んだ。
「無理よ!判っているでしょ!エターナルの呪文は詠唱時間が長いのよ!」
コーネリーが叫び返した。
エターナルの魔術師は、色々な系統の呪文を使える反面、詠唱時間が掛かるという欠点を持っていた。
リート・ボンドネードは仕方なく盾を離した。
その時、視界の端に、動く薮を見つけた。
そして3つの首が出ていることに気が付いた。W&M事務所だった。そして視線が合った事に気が付いた三つの首は薮の影に隠れた。だが横にした魔術師の娘の長い杖が薮から、はみ出していた。
スカイ達はリート・ボンドネードと視線が合って慌てて頭を薮の影に引っ込めて隠した。
「見つかったか?」
スカイは薮の幹を持って岩の影に向かってしゃがんだ姿勢のまま薮を移動させながら小声で言った。
「いや、判らん。だが、確実に、こっちに気が付いたぞ」
マグギャランは動揺した声で囁いた。
「モンスター・ティマーの娘!お前の後に、3人組の冒険屋のパーティが居るぞ!」
リート・ボンドネードの声が聞こえた。さっきのスカイと同じ様な事を言っていた。
「バカ!アイツ!余計な事を言いやがって!」
スカイは頭を出してモンスター・ティマーの方を見た。
「こら、スカイ!頭を引っ込めろ!ここは、ただの薮になりきるのだ!」
マグギャランは鋭い小声で言った。
「知っている」
モンスター・ティマーの女は言った。
何、知っているのか?
作品名:情熱のアッパカパー要塞 作家名:針屋忠道