情熱のアッパカパー要塞
「じゃあ、他の仕事を調べるぞ。この荷物の運送の護衛という仕事は怪しいな、運ぶ荷物が秘密と言うのが胡散臭い。普通は申告するのが筋という物だろう。報酬は一人頭、十五ネッカー(百五十万円)か。運送の護衛で敵が出ない条件にしては高すぎるな」
スカイは怪訝に思った。
「こんな、ヤバ気な荷物を運ぶ仕事が堂々と載っているんだから。この業界はガラの悪いことは間違いないな」
マグギャランは言った。
スカイは、ふと嫌な事を思いだした。
「確かに不味いな。思いだしたぞ。この「レクタァー運輸」はミドルンのマフィア筋のラリゴロ一家が資本金を出しているマフィア企業だ。関わらない方が利口だな。きっと、運び屋の護衛で十五ネッカー(百五十万円)も出すなんて、相当不味い荷物を運ばさせるつもりだぜ」
スカイは言った。
この仕事は関わり合わない方が利口だった。
マグギャランは髪をクシャクシャと掻きむしった。
「仕事だ、仕事。兎に角、我々にはジョブが必要だジョブが。もっとマシな仕事は無いのかスカイ」
マグギャランは言った。
スカイは溜息を付いて端末から顔を上げた。 「まあな、稼げるときに稼いでおかないと、途端にバタリと仕事が無くなるのが冒険屋業界だからな。冒険屋業界の不況は小刻みに、いきなり来るからな。天下太平だとメシを食いっぱぐれる因果な商売さ」
スカイは言った。
それは7年間の間、冒険屋業界でメシを食ってきたスカイの経験則でもあった。
「俺がケーブルテレビの番組を気持ちよく見るためには大画面のテレビに買い換えなくてはならないのだ。今の八十インチではダメだ最近フラクターが売りだした百三インチのテレビが欲しいのだ」
マグギャランが言った。
「外国でも良いから、マシな仕事を捜そうぜ」
スカイは言った。
そしてスカイは再びタッチパネルを操作した。だが、ロクな仕事が見つからなかった。
「W&M事務所さん。仕事の依頼です」
受付嬢がスカイ達に大きい声で言った。
W&M事務所は、スカイとマグギャランがコロンが入る前に冒険屋組合に登録したパーティ名だった。
「なんだ、俺達を指名してきたのか?ダンジョン競技で少しは有名になったからな。最近は、その線での依頼が殆どだな。まあ仕事が在るという事は良いことだが」
マグギャランは肩を、すくめながら言った。
「報酬は幾らだよ」
スカイは言った。
「一人頭二百五十ネッカー(二千五百万円)です」
受付嬢は言った。
「に、二百五十ネッカー(二千五百万円)!」
スカイは思わず、大声を出した。
これは大金だった。
「おおっ。何とも良い金額だな。俺がテレビを百三インチに買い換えても十分だ」
マグギャランは言った。
「あなた達、3人を指名しています」
受付嬢が言った。
「受ける!」
スカイは即断即決した。
「まあ、確かに二百五十ネッカー(二千五百万円)ならば、冒険屋の報酬としては多い方に入るな。だが、難易度はかなり高い仕事である可能性が高い。どんな仕事なのだ」
マグギャランは言った。
「仕事の内容は、拉致された息子の救出です」
受付嬢は言った。
「変わった依頼だな。まあ、たまに在るような種類の依頼ではあるがよ」
スカイは言った。
この冒険屋の世界は何でも有りの仕事が回ってくるので、身代金の引き渡し交渉の仲立ちなども仕事の内であったし。スカイも、やったことがあった。
「ミスター無情にでも拉致されたのか。どういう事情なんだ」
マグギャランは言った。
「電話に出ますか?」
受付嬢が言った。
「うむ、俺が出よう」
マグギャランがは電源コードの付いた携帯電話を受付嬢から受付で受け取った。
「おい、マグギャラン。俺達にも聞こえるように音量を大きくしろ」
スカイは言った。
「判った」
マグギャランは携帯を操作した。
「はい、こちら騎士のマグギャラン」
マグギャランは言った。
「私はロード・イジアだ。君達3人を雇いたい」
十分と言えば十分すぎる音量で男の声が携帯から聞こえはじめた。必要以上に堂々とした声だった。
「何故、我々を雇うのですか」
マグギャランは言った。
「マグギャラン、この依頼は受けるに決まっているだろう。何も言わずに黙って受けろよ」
スカイは言った。
二百五十ネッカー(二千五百万円)の報酬の仕事なんて滅多に在る物ではなかった。
だが、マグギャランが手でスカイを制止した。携帯からロード・イジアが話し始めた。
「私はケーブル・テレビに加入していて、ダンジョニアン男爵の迷宮競技の大ファンなのだよ。ダンジョンゲームが、今のように子供の遊び程度に堕落する前の最後のダンジョンゲームでゴール前で奇跡の逆転一位で優勝した君達の活躍が目に焼き付いていてね。それで君達の事を調べて雇うことにしたんだ」
ロード・イジアは電話の向こうで言った。
あのシキールやダンジョニアン男爵達の殺人ゲームのファンならロクな奴では無さそうだ。ロードとか自分で名乗っている所が悪い奴っぽかった。だが。コイツは金は持っている。
そこは重要だった。
何とかして依頼を受けなければならない。
「我々を指名した理由は判りました。仕事の依頼はどんな内容なのですか」
マグギャランは聞いた。
「うむ、実はだな。私の息子がイシサ聖王国のアッパカパーのクソバカヤロウに捕まってしまったのだ。君達には恥を忍んで私の不肖の息子の救出を頼むのだ」
ロード・イジアは必要以上に重々しい声で言った。
「イシサのアッパカパーという人に捕まって居るのですか」
マグギャランは言った。
「そうだ。依頼を受けて息子を助け出してくれるならば、フラクター帝国銀行に二百五十ネッカー(二千五百万円)を一人頭振り込もう」
ロード・イジアは言った。
「受けるぞマグギャラン」
スカイは言った。
「どうした物かなスカイ。冒険屋の報酬査定制度では、この二百五十ネッカー(二千五百万円)クラスの仕事となると、かなり難易度が高い仕事になるだろう。理由を聞いてみるぞ」
マグギャランは携帯電話のマイクを塞いでスカイの方を見ながら言った。
「何故、二百五十ネッカー(二千五百万円)の報酬が出るのですか。少し高すぎませんか」
マグギャランが聞いた。
「高くねえよ!そのまま受けるんだよ!」 スカイは怒鳴った。
「それは、私が算出した金額です」
受付嬢が言った。
何?こっすからい、冒険屋組合の報酬勘定で二百五十ネッカー(二千五百万円)も出るのか?スカイは疑問に思った。
「私は、冒険屋組合に報酬を相談して報酬を決めたのだ。確かに君達は、かなり困難な仕事を、しなければならなくなる。だが、あのダンジョン・ゲームをアンラッキー・セブンからスタートして一位通過した君達ならば、このダイ・ハードなミッションもクリアーできるはずだ」
ロード・イジアは言った。
「それは、どんな仕事ですか。拉致された息子の居場所が判って居ないのですか?それで依頼の報酬額が高額なのですか」
マグギャランが聞いた。
作品名:情熱のアッパカパー要塞 作家名:針屋忠道