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情熱のアッパカパー要塞

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 突然霧の漂う左手の木々の間に生い茂っていた藪が捲れて筋肉質の筋肉の塊の怪物達が何人も現れた。
 スカイは反射的に剣を抜いた。
 マグギャランも剣を抜いて、何時もと違う構え方をしていた。
 コロンも火球を杖の先端に作って浮かばせた。
 「何だ、コイツラは」
 スカイは言った。
 筋肉質の怪物や人間達は皆、白い腰布一丁に、はち切れんばかりの筋肉だらけの身体に入れ墨を入れていた。何処かで見たような連中だった。スカイは素早く数えてみた。
 一人、二人…十人。十人もの数の筋肉の塊の怪物達が狭っくるしい場所に隠れていたのだ。
 「戦斧隊に似ているな」
 マグギャランは言った。スカイ達が前に戦ったことのある戦斧隊と全く同じと言えば同じだった。
 三メートル近くの身長がある巨大な牛頭人が巨大な戦斧を持ったまま前に出てきた。
「似ているのでは無い。我々は、戦斧隊そのモノだ」
牛頭人は言った。
 「我々、第八戦斧中隊は反タビヲン王国の独立運動の軍資金集めのために傭兵稼業に身を投じているのだ。私は第八戦斧中隊第一戦斧小隊小隊長アガ」
 アガは携帯電話を腰布の中に入れながら言った。
「くそっ、完全に囲まれているぜ」
 スカイは辺りを見ながら言った。
「どうするんだ。戦斧隊と戦うか。コイツラは人語を話すが基本的には怪物達だ」
マグギャランは言った。
その時、戦斧隊の背後に、ボンドネード・ファミリーの17ぐらいの首に包帯を巻いた男が居るのが見えた。
 「スカイ、何だ、アイツは?」
 マグギャランも気が付いた。
 ボンドネード・ファミリーの男はスカイ達に向かって笑って手を振った。そして戦斧隊の後を口を押さえて笑いを押し殺しながら歩いていった。
 「戦斧隊!お前等の後に、他のパーティの奴がいるぞ!ボンドネード・ファミリーって言うロード・イジアが雇った冒険屋達だ!」 スカイは叫んだ。
スカイ達だけで、この怪物達の相手をするのは実質的に無理だった。
どうせなら、ボンドネードの奴等も巻き込んだ方がよかった。
 「そのような見え透いた小細工に我々が掛かると思うのか。我々は歴戦の勇士達だ」
 戦斧隊の小隊長アガは真っ直ぐ前を向いたまま言った。
「見て見ろよ!お前等の後を!今、歩いているぞ!」
 スカイは叫んだ。
「くどい!そのような、ありふれた策は我々には通用せぬ!」
アガは叫んだ。他の戦斧隊の連中もスカイ達から視線を離さずに、じっと見据えていた。
 今度は、戦斧隊の後でボンドネード・ファミリー全員が姿を現した。リーダーのリート・ボンドネードが、一番後で笑っている17ぐらいの男を睨んだ。笑ってる17ぐらいの男が気が付いた途端に急にボンドネード・ファミリーが全員、消えた。
だが、戦斧隊はスカイ達の方を凝視したまま。戦斧を構えていた。
 「何て、バカな連中達なんだ。だから、混沌の大地はタビヲン王国に併合されたんだな」
 マグギャランは言った。
 「そこの、黒髪の人間よ、今、聞き捨てならぬ事を言ったな」
 アガは言った。
「混沌の大地は残虐非道のタビヲン貴族達と戦い続けてきたのだ。貴様等が死ぬ前に、じっくりと聞かせてやろう」
「何で、俺達が来ることを知っていたんだよ」
スカイは、辺りを囲っている戦斧隊を見ながら言った。
 「それは、ロード・イジア要塞の中にスパイが居たからだ」
 アガはアッサリと言った。
 はあ?スパイ?
 考えてみれば当然ではあった。
 ロード・イジア要塞の中にスパイが居るから、スカイ達が来ることを知っている。当然と言えば当然の結論であった。
「ああっ、やっぱり何か、変だと思っていたぞ。あの入管の兵士達の目つきが警戒している風だったからな。俺達は張られた罠の真っ直中に、のこのこと現れてしまった大間抜けだというのか」
 マグギャランは嘆息しながら言った。
それはスカイ達の現状を寸分の狂い無く言い表している言葉ではあったが、すんなり肯定するには、あまりにも身も蓋も無かった。
「まず、教えてやろう、タビヲン王国とは、そもそもは平和に暮らしていた、混沌の大地にコモンからやって来た黒い悪魔に率いられた…」
戦斧隊の話が始まった。
十分ぐらいアガは延々と、つまらない話を話していた。話の、あらすじは、平和で幸せな混沌の大地にコモンを追い出された鼻つまみ者達がタビヲン王国という邪悪な国を作って混沌の大地を征服して奴隷にしようとしているという所まで話は進んでいった。
「どうするんだ、スカイ、この状況は」
マグギャランは小声で言った。
「迂闊に動くと、奴等が飛びかかってくるだろ」
スカイも小声で言った。
 「その通りだスカイ。迂闊に動く訳にはいかない。だが、こんな話聞くだけでも拷問に掛けられているのと変わらないぞ」
 「…任せて」
 コロンが小声で言った。
 「どうするのだコロン。お前の火球で一度に薙ぎ払うにしても囲まれて居るぞ。これは極めて分の悪い状況だ」
 マグギャランは小声で言った。
 「…向こうの崖沿いの道まで走って」
コロンは小声で言った。
「走れば、どうにかなるのか」
 スカイは小声で言った。
 「…うん」
 コロンは小声で言った。
「だが、どうするのだ。コロンは、あまり足が速くないだろう」
 マグギャランは小声で言った。
「…この呪文は発動までに時間が掛かるの」 コロンは小声で言った。
 「しょうがねぇな。俺達で抱えて、走っていくか」
スカイは小声で言った。
「他に方法が在るまい。俺が頭の方を持つ。いいなコロン」
マグギャランは小声で言った。
 「…うん」
 コロンは小声で言った。
 スカイとマグギャランは、コロンを抱え上げた。マグギャランが頭の方を持ってスカイが足の方を持った。
「何、我々の話を聞かないのか。ならば斬り殺してくれる。戦斧隊!突貫!戦斧殺!」
 アガが戦斧を振りかぶった。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
 戦斧隊が戦斧を振りかぶって雄叫びを上げた。そしてスカイ達に向かって突進してきた。
「戦斧技!徒然カキツバタ!」
 「戦斧技!枝下アサガオ!」
 「戦斧技!緑山ヒナゲシ!」
 「戦斧技!」
 スカイ達に巨大な戦斧の雨嵐が殺到した。
「うぉりゃぁあああああああああ!」
 スカイとマグギャランも負けじと雄叫びを、あげ返して二人でコロンを肩の上に抱えたまま戦斧の雨嵐の中を根性で走っていった。
もう訳の判らない状況だった。戦斧隊は戦斧をグルグル回したり、回転させたりしてスカイ達に突進してきたのだ。あの筋肉とガタイから繰り出す戦斧を一撃でも食らったら、そこで終わりの筈だった。
 だが奴等は互いに戦斧と戦斧が、ぶつかったり、味方同士で相打ちになったりしながら、スカイ達を戦斧で殴り殺そうとして一斉に突っ込んできたのだ。奴等自身の同士討ちでスカイ達は、その間を頭を下げたり足でジャンプしたりして、かいくぐった。スカイとマグギャランは巧みにコロンを抱えたまま命がけのフットワークを使って走っていった。
「抜けた!」
 スカイは後を振り向いて叫んだ。