情熱のアッパカパー要塞
ボンドネード・ファミリーは姿が消えて影だけになった。
「よし、このまま、霧の谷鉄橋を通り抜ける」
リート・ボンドネードは言った。
そしてボンドネードファミリー達は、霧の谷鉄橋のミドルン王国側の国境を通り抜けて、霧の谷鉄橋を渡っていった。
イシサ聖王国側の検問所ではW&M事務所の三人組が並んで入国の手続きをしていたが。リート・ボンドネード達は、影になったまま、先へと進んでいった。
「何、考えているの。W&M事務所の三人組は普通に入国の手続きをしていたわよ」
コーネリーが検問所を離れてから言った。
「さあな。理解には苦しむが我々はW&M事務所を利用する」
リート・ボンドネードは言った。
「トラップ・シーカー作戦をやるつもり?」
「そうだ。現在、我々はW&M事務所より先行しているが。途中で隠れてやり過ごす。そして、奴等を先に行かせて、その後に付いて行く。奴等が待ち伏せに遭ったら迂回して先へ進んでいく」
「たしかに罠を発見するのには丁度良いわね。傭兵団「屍」の副団長の冬風は黒竜太子一党の軍師として性格の悪いことで有名よ。注意はしておいても損は無いわね」
「そうだ。W&M事務所は。我々、ボンドネード・ファミリーの作戦の中で始末する」
リート・ボンドネードは、W&M事務所を、やり過ごすための隠れ場所を捜しながら言った。
スカイ達は、検問所で入国審査を終えて、アッパカパー伯爵領の中を歩いていった。
「何とか、無事に通り抜けたよな、ドキドキモノだったぜ。まあ、何等やましい所なんかねぇよな。パスポートは本物だし俺達は仕事でイシサ聖王国に入国するんだから入国理由も本物だしよ」
スカイは、パスポートを腰の防水バッグに入れた。
「ああ、俺も、今までは就労ビザが切れた後、偽造パスポートでミドルン人のフリをしていたが。ミドルン国籍を正式に収得した以上。堂々と、このパスポートが使えるな」
マグギャランはミドルン王国の赤いパスポートを見ながら言った。
「まあ、気楽に行こうや。俺たちゃツイている。国境の検問も何のそのでチョロく、お通りよ。パスポートには記念の「アッパカパー伯爵」の肖像のスタンプまで押してくれたしな」
スカイは言った。
スカイ達はアッパカパー峠の山道を下って、アッパカパー要塞の城下町「半日町」へと向かっていった。
辺りは杉や樫の木が植わっていて霧が立ちこめていた。
その間に出来た舗装されていない土が剥き出しの道がアッパカパー峠だった。
確かに、こんな所を、わざわざ通る人間なんか居そうも無かった。スカイの知る限り、ミドルン王国とイシサ聖王国は大昔に作られたツルッペリン街道が通って繋がっているから、こんな山道をわざわざ通る必要は無かったのだ。
元々仲の悪いイジア国とアッパカパー伯爵領を行き来する人間も居ないと言う訳だろう。
ミドルン王国が、やっつけ仕事のような簡単な関所を作って霧の谷鉄橋の反対側に緩衝地帯を作っていたし。通る人間など居ないような寂れた道だった。
「まあ、ハイキングみたいな物だろうスカイ。今頃、カーマイン女卿はどうしているかな。あの悩ましげな顔でダンジョンの中を歩いているのかな。美女とダンジョン。何てイケナイ響きなのだ」
マグギャランは鼻息荒く言った。
どうやら妄想の世界に入っていったようだった。
「はっくひょん!」
ミラーナ・カーマインは突然くしゃみが出た。
「どうしました姫様。流感にでも掛かりましたか?薬は一式持って来ております。直ぐに、お飲み下さい」
ラヒアが言った。
「違う。私は風邪などではない。突然くしゃみが出たのだ。これは酷く嫌な感じの、くしゃみだ。誰かが私の噂をしているに違いない」
ミラーナ・カーマインはラーンから渡されたハンカチでハナを啜りながら言った。
「姫様は器量よしですから、世の男達が噂をせぬはずは在りません」
ナバーガーが言った。
「このような顔など、好色な男達を引き寄せるだけだ。カーマイン大公国の再興の為には何の役にもたたない」
ミラーナ・カーマインは言った。
2人の兵士が階段の両脇に立っていた。兵士達は生真面目にも、ずっと前を向いていた。
ソークス達はその兵士達へ、リッカの光学迷彩の呪文で透明になって近づいていった。
「やれ」
ソークスはルージェイとマウドに合図を送った。
リッカの光学迷彩の呪文が途切れた。
突然姿を現したソークス達を見て、兵士達は驚いた。だが叫び声を、あげるより先にソークスは斧槍を持った右側の兵士の右腕を取ってリバース・スラストで引き倒した。兵士の身体は空中を舞って一回転して背中から落ちた。
その口にソークスは左手を当てた。兵士は動けなくなった。
マウドとルージェイ達も左側の兵士を捕まえていた。ルージェイが猿ぐつわを掛けてロープで手足を縛った。
「こっちの兵士から情報を聞き出す」
ソークスは左手で押さえ込んでいる兵士を見ながら言った。
「あまり光学迷彩の呪文を使わせないでよ。これは維持するの、すんごく疲れるのよ」
リッカが頭を押さえながら言った。
「光学迷彩の呪文はノアムが、よく使って役に立っていたから、どうしても使ってしまうんだよ」
マウドは言った。
「いーだ。私は、お兄さまの代用品じゃ無いのよ。私は私なの」
リッカは言った。
「この兵士達から情報を聞き出すぞ。その前に場所を移そう」
ソークスは言った。
そして扉の方を指した。
ルージェイが鍵を開けた。
ソークス達は。扉を開いた部屋の中に入っていった。
「小イジアの居場所を知っているか?」
ルージェイは兵士達2人に聞いた。
兵士達は2人とも顔を見合わせた。
「知っている」
2人とも異口同音で答えた。
「どこにいる」
ルージェイが言った。
「もし、兵士の我々がミドルンの冒険屋達に捕まった場合。こう言えと言われている。小イジアは1時間置きに、アッパカパー要塞の中の部屋を次々と移動していると」
右側の兵士が勝ち誇った様な顔で言った。
「不味いな」
マウドが言った。
「確かにそうだ」
ソークスは溜息を付いて言った。
「シラミ潰しに全部の部屋を捜しても部屋を移動されていたら捜しようが無い、何処かで行き違いが起きてしまう。運を頼るしか方法が無い」
ルージェイが言った。
だが運を頼りにするにしても、このアッパカパー要塞は広すぎた。
スカイ達は、のんびりと歩いていた。
まあ、ただの山道で下りの勾配だったから、簡単に歩いていくことが出来た。
「いやぁ、どうなることかと思っていたけれどよ。結構簡単に国境も通れただろう」
スカイはブラブラと歩きながら言った。
「まあな、まあ成せば成るという訳だ。成さねば成らぬ。何事も心構えが重要なのだなスカイ」
マグギャランも機嫌良く言った。
辺りに霧が立ちこめていた。左手がなだらかな傾斜になっていて、木が鬱そうと生い茂り、右手の方は崖になっていて崖の下に生えている木の先端が霧の間から出ていた。
「待っていたぞ携帯に掛かってきた通りだ」
作品名:情熱のアッパカパー要塞 作家名:針屋忠道